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□あなたに捧ぐ言葉を胸に
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彼が抱えたものは、あまりにも重かった。

その重みを誰よりも愛おしみ、壊れないように慈しみ、そして誰にも委ねない一種の傲慢さを彼は持っていた。
過去も今もしなやかなその両腕で抱きとめて、どちらもこぼれ落ちないように、と。

俺では頼りなかったのか、という問は意味をなさない。
彼ひとりすら守れなかった、届かなかった自分では。その重みを一緒に共有したかったと悔やむことさえ、意味をもたない。守られるような彼ではなかった。

それでも、守りたかった。
他人を生かすことばかり上手い彼を、刹那が生かしたかった。

『ロックオン、ロックオン』

彼が相棒とよんだオレンジの球体が、彼の名前を繰り返しながら刹那の周りを飛び跳ねる。大きな窓の向こうには、彼を飲み込んだ宇宙の深淵が広がっている。

マイスターはもちろん、トレミーで生きるものたち全て。
そして、彼を縛りつける過去。
どちらも捨てきれずに抱きしめたままで、ロックオンは生きようとした。

その結果、家族の中核をなしていた存在が、奪われてしまった。

彼が刹那にとってどれほど至高のものだったか、伝わっていなかったというのか。
彼自身を尊く思うものたちの気持ちを、踏みにじるような彼ではないはずだ。

自分の無力さを噛みしめる。
世界は、どこまでも優しくない。悪意に満ち満ちている。あらゆるものは奪われる。
けれど、すべてを世界のせいにする時代は、終わった。そのはずだった。
奪われるために与えられた体温であったなどと、思いたくはない。思わない。

死を、見とどけたわけじゃない。
ただ、自分の側から奪われただけだ。だから、奪い返す。相手が、何者かわからなくとも。

いつも与えられるばかりだった「おかえり」を、彼に返せる日がきっと。

そのころには優しい彼が、もう傷まない世界で。

その決意が、刹那を生かしている。


Fin.


20080624
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