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□最後のプレゼントの名は
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喪失は、つらい。
今はいない彼は、それを刹那に教えた。

ロックオン。刹那は呼びかける。
俺はお前に出会ってしまった。
お前は、俺に与えてしまった。手をのばすことを教えた。
それなのに。

お前は失う痛みに縛られていたはずだ。
知っていたはずだ、その悲劇を、誰より。それを俺に与えることがお前の復讐なのか?
それとも、ただ単に、お前はお前の大事なもののように、誰かを縛っていたかったのか?

どちらにしても、刹那にはこの痛みを甘受するしかない。
ロックオンは、刹那にその身体の一部でさえ残してはくれなかった。せめて彼の身体があったならば、刹那はなんの躊躇いもなく、それを咀嚼し、自分の血肉として少しでもともにあれるようにしただろう。

残されたものは、あまりにも少ない。
だから、その少ない全てをいとおしんで、一滴もこぼさないように両手でずっと抱えて走るしかない。

もし、いつか傷が癒える日が来てしまうなら。きっと刹那は、その傷口をみずからえぐって、血を流し続ける。
彼と繋がり続けるには、もうそれしかなかった。それしか見つけられなかった。

お前は知ってたんだな。
俺の世界が、お前の死で揺らぐことはあっても止まることはないと。
どこまでも残酷な、世界のあり方を。

ロックオン、聞こえるだろうか。

世界がいつか、恒久平和に抱きしめられようと。お前がどこかでそれを見つめてこのうえなく優しく微笑もうとも。
お前がここにいないと、俺は寂しい。この命が尽きるその瞬間まで、寂しいままだ。

世界は広く、宇宙にまで人間は進出した。
果てないこの宇宙に抱かれて、無数の頼りない命が胎動している。
何十億といういのちが。

それなのに、一番大事な人間がどこにも見あたらないんだ。

たったそれだけのことが、言葉にならないくらいに苦しくて、胸をかきむしりたくなる。それなのに、俺は生き続けることが出来る。
それが、最大の悲劇。
 

どうか、この願いが届くなら。
存在するかもわからない神よりも、自分を慈しんでくれた彼に届くなら。
ひとりで罰を受けずに、待っていてほしい。

不器用な彼は、きっと優しい家族のもとに帰ることすら躊躇っているだろう。汚れた手で、もう触れられないなどと勝手に自分を責めて。
それなら、俺を待っていてほしい。
俺に生きろと言うなら、お前の意志や罪を分け与えてもいいと感じたのなら、それくらい叶えてくれたっていいはずだ。
俺がお前のそばへ行ったら、それからはきっとふたりで。
手を、つないで。奈落の底まで。

Fin.


あなたがわたしに与えたもの。
あなたの目のような豊穣の色、緑のリボンで包まれた、悲劇。

20080624
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