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□ディア・マイ・ゴッド
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0,受胎告知
刹那は、そのとき14歳だった。
ガンダムだけが、真理であり、光だった。
誰も刹那の世界には入ってこられなかった。
戦場での日々だけが、刹那をつくった。
それだけで、刹那の世界は完結していた。
人間は、ひとりで生きて死ぬ。自分のために生きて、死ぬ。
歪み澱んだ世界でも、それは揺るぎない事実だ。
諦めに似た確信が刹那のなかに渦巻いている。悲しくはない。
どうしたって他人とは分かり合えない。
だって、世界はいつまでも歪んだままじゃないか。
たとえどんなに嘆いても、求めても、他人のためには生きられないし、他人が自分のために生きようとするなんて気持ちが悪い。
自分が生きるために他人を殺す。
自分を守れるのは自分だけだ。
そしてその絶対的な孤独は、だれもに等しく与えられている。
神はいない。
すると「どうしてそう言い切れる?」とロックオンは笑った。
刹那は答える。誰も救ってくれないからだ。
「神様が、人間に優しいなんて誰が決めたんだろうな」
ぽつりと、ロックオンはつぶやいた。
「神様のために」なんて言葉で何を許せるんだろうな、と。
ロックオンのことを、刹那は何も知らなかった。
逆も同じ。
ただ、その言葉が、その表情が、刹那のなかに刺さった。
わかったからだ。
ロックオンが神に絶望したことのある人間だと。
神はいない。
いや、いるのかもしれないが、それは刹那の望む神ではない。
そして、ロックオンの望む神でもない。
生きてゆくための縋る対象を神と呼ぶものたちは多い。
神が自分たちに優しいと信じることこそ、人間の傲慢なのかもしれない。
当然だったけれど、その日初めて刹那は気づいた。
この世界に絶望して、そのうえで歪みに抗おうとするのは刹那だけではなかった。
人間は、ひとりで生きて死ぬ。
けれど、自分をひとりきりだと思うことも、きっと傲慢だった。
それを、知った。
バイバイ神様。世界を弄ぶ神様。
あんたは、もういらない。
20080628
受胎告知:天使ガブリエルがマリアにキリストの受胎を告げたこと