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□四つ葉のクローバー、見つけた
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☆ガールズトークその2



「・・・触ってもいい?」

おずおずとそう尋ねてきたフェルトに、ロックオンは笑みを深くした。
傍らに立っていたフェルトの腕をひいて、ベッドにあがらせる。

フェルトはおそるおそるロックオンのまあるく膨らんだお腹に手をあてて、ほぅっと息をついた。

「っ、いま、動いた?」

「うん、フェルトに挨拶したがってるのかもな」


そう言って微笑みかけるロックオンの顔は、以前にも増して優しい。

「こいつのお姉ちゃんになってやって」

ロックオンの言葉に、フェルトはぶんぶんと大きく頷いた。
トレミーで一番末っ子の自分が、お姉ちゃんになれることが嬉しくて。
愛してもらって守ってもらってばかりだったから、今度はもらった愛情をいっぱいあげられるように。


「明日には刹那が帰ってくるって、スメラギさんが」

「そっか」と言うロックオンの頬がピンクに染まる。

刹那がミッションに出ている間、一緒に戦えないのを歯がゆく思っているロックオンを淋しくさせないように。
フェルトが刹那からまかされた特別ミッションだ。


「でも、刹那が帰ってきたらまた大変だな」

お腹の子供とロックオンの身体を気遣うあまり、あまりに過保護な最近の刹那を思ってロックオンは苦笑する。
ティエリアも負けずに過保護なものだから、ふたりともトレミーにいるとなると、ロックオンは出歩けなくなってしまう。

最近では料理の腕をかなりあげている刹那を思い出して、フェルトも笑った。





☆マタニティーブルー


ぼすっ、と壁にクッションが投げつけられた。

あと30センチずれていたら、刹那の顔面にあたっていただろう。
もしあたっても、きっと刹那は避けも受け止めもしなかったが。


「すまなかった」

刹那の地上待機が長引いてしまい、帰るのが予定より二日遅くなった。
といっても、ロックオンにはスメラギから連絡がはいっていたはずだ。
ただ、普段なら刹那本人から通信を入れていたのに、今回は忘れてしまった。
それも早く帰るために必死だったせいで。

データを提出して早々にロックオンの部屋へ行けば、クッションが飛んできたのだ。

「っ、・・・ごめん。刹那、疲れてんのに・・・、こんな」


潔い刹那の態度に我に返ったらしいロックオンが顔を後悔に歪め、俯いてしまう。

出産が近づくにつれ、最近のロックオンはいらいらしたり不安になることが多いようだ。
刹那にはそのイライラや不安の種を完全に取り除いてやることはできない。
もしトレミーが危険にさらされれば、戦わなくてはならないし、常にロックオンの傍にはいられるとは限らない。

だからせめて、ロックオンが抱えるものの受け皿になりたいと思う。
ロックオンがぶつけるものなら何ひとつ、取りこぼしたくない。

優しくて綺麗なロックオンを好きになった。それは本当だけれど、それだけでこんなには好きにはなれない。
叫んだって、泣いたって、怒りをぶつけたっていい。
ロックオン自身が許せない愛せない部分だって、見せてくれれば嬉しくなって、いとしくなって。


「大丈夫だ。ロックオンの顔を見たら、疲れなんてなくなる」

そっと青白い頬を包み込んで額に口付けると、ふっとロックオンが身体の力を抜いた。
もっともっと甘えればいい。

まあるく膨れたお腹に触れると、刹那の考えに賛成するようにまだ見ぬ子どもが内側で動いているのが分かった。





☆過保護なティエ様


「・・・ん」

ふいに目が覚めて、ロックオンは瞬きをした。
手を伸ばして端末で時間を確認しようとするが、後ろから伸びてきた腕に阻まれる。

「せつな?」

起こしたかと思い、小声で名前を呼んでみると背後の刹那が身じろぎしたのがわかった。
眠っていたというのにロックオンを離すまいとする刹那の行動に、ふっと笑みがこぼれる。


臨月をむかえたロックオンは、お腹の重さのせいで上を向いて眠ることもできない。
刹那と向かい合って眠れば、お腹のぶんだけふたりの間が空いてしまう。
だから、最近はいつも刹那がロックオンを後ろから抱きしめて眠っていた。


喉の渇きを覚えて、ロックオンはそろそろと刹那を起こさないように腕を解く。まだ朝の4時前らしい。
「ちょっと水飲んでくるだけだからな」と啄むようなキスをそっと落として。
よいしょ、と部屋に設置されたバーを掴んで通路へ出る。
もちろんこのバーは、ロックオンの身体を気遣って設置されたものだ。



「ロックオン!」

部屋を出てすぐに声をかけられ、振り向くと立っていたのはティエリアで。
・・・よりにもよって、ティエリアに見つかるとは。
大声を出すなよ、というロックオンの言葉を無視して口を開く。

「ひとりで何をしている!転びでもしたらどうするつもりだ!」

刹那・F・セイエイをちゃんと起こせ、と怒られる。


「喉渇いただけなんだって。水飲んだらすぐ戻るさ」

「なら、僕が水を持ってくるから動かないでくれ」


真剣に言うティエリアの剣幕におされて、ロックオンはこくりと頷いた。
そして、食堂へ向かうティエリアの背中を見送りつつ、「お前はみんなに愛されて幸せだなぁ」と花が綻ぶような笑顔で呟き、お腹を撫でた。



END
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