シリアス(?)

□Il mondo della quiete
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「ここは・・・どこだ・・・?」


全てを包み込むミルク色の霧。人気のない道路。

俺は依頼で悪魔の掃討をしていたハズじゃ・・・。あぁ、そうだ、油断して背中に一撃を食らって倒れた後急に光に包まれて・・・ダメだ。記憶が飛んでる。
まさかゴールドオーブが時間を巻き戻しすぎたのか?

・・・それはないか。
何にせよこのままつっ立ってる訳にもいかない。
取り敢えず進んでみるか・・・。

俺は濃霧で満たされた道を真っすぐに進んでいった。








どれくらい歩いただろうか。霧のせいで周りの様子が把握出来ない。

「ん?あれは・・・」

歩を進める度に霧の中に薄ぼんやりと何かが浮かび上がってくる。
俺は警戒しながらそれに走り寄った。

「・・・墓地、か」

霧の中に見えていたのは無数の墓標だった。

「こういう状況で見ると、不気味なもんだな・・・」

ガラにもなく鳥肌を立てながら墓の間を歩いていくと、墓の形とは明らかに違う影が一つ。良く見ると動いている。人・・・みたいだな。

「・・・そこのあんた」
「ん?何だ、人か」

近づいて声をかけると、その人影は振り向き、こちらに歩み寄ってきた。

「・・・!」
「何驚いた顔してんだ?俺の顔に何かついてるか?」

俺は言葉を失った。目の前に居るのは、過去の俺。ちょうど便利屋を開業した当時の姿だ。

「いや、何でもない・・・」

過去の自分が居るということは、これは夢か?悪魔に倒されてそのまま夢の中?いや、奴らの前で倒れたなら殺されてるハズだ。ダメだ、考えるのは止めよう。頭が痛くなる。

「ところでアンタ何してるんだ?こんなところで」
「・・・良くわからない。ただ、気が付いたらここに居た」
「クレイジーだな」
「ああ・・・」

まさか自分にクレイジーだなんて言われるなんてな・・・。
不思議な気分だ。

「これからどうするんだ?」
「・・・取り敢えずこの先に進む」
「・・・この先にか?」

過去の俺が眉をひそめた。
「止めとけよ。この先、危険だぜ」
「危険・・・?」
「化け物がうろついてる」
「その程度なら大丈夫だ。どうせ悪魔だろ」
「違う。悪魔じゃない」
「何だって良いさ。先に進まなければ何も変わらないからな」
「・・・そうか。そこの道から街のほうに行ける。気を付けろよ」
「じゃあな。化け物が居るならお前も気を付けろ」
「ああ、それじゃあ」




俺は過去の俺と別れて鉄格子の扉を開いて墓地を後にした。









「何なんだ・・・?この街は・・・」

相変わらずの霧の中、たどり着いた街は静寂に包まれていた。建造物は比較的新しい外観で、直前まで人が生活していたような使用感も残っている。だが、誰も居ない。

ゴーストタウン・・・と言うには綺麗すぎるな。

「・・・ん?」

俺は足元に何かを引きずったような血痕があることに気が付いた。
その血痕を辿って先を見ると、蠢く影。人の形をしているようだが、動きが人のものではない。

「何だ・・・近づいてくるようだな・・・」

・・・あいつが言ってた化け物か?

霧を掻き分けて近づいてきたのは、拘束着を着けられた人間のような姿勢でクネクネ動き、てらてらと滑るような黄土色の表皮を持つ怪物。
悪魔・・・じゃないな。何だ?コイツは。
・・・理由はわからないが見ていると苛々する。


・・・殺さなければ。咄嗟にそう思った。



気が付くと俺は化け物を斬り伏せて、何度も何度も蹴りつけていた。
錆色の液体が地面に広がる。化け物は原型を留めぬ程ぐちゃぐちゃになっていた。明らかに息絶えている。

「何だっていうんだ・・・」

普段ならこんな暴力衝動に捕われる事は絶対に無い。
まして死んだ奴を更に攻撃するなんてもっての他だ。
・・・なのに俺はまだその化け物の死体に苛立ちを感じでいる。
何も出来ない無力な頃の自分を見ているような不快な気分。焼け付くような感情が沸き上がる。


「はー・・・」


落ち着け。こんなの俺らしくない。
いきなりこんな所に飛ばされたから疲れたんだ。そうだ、疲れただけだ。

深呼吸を何回かすると、いくらか落ち着いてきた。

「ふぅ・・・行くか・・・」

俺はできるだけ化物の死体を見ないように顔を背けて通り抜けた。



・・・・・・・・・・・・・・少し、休みたい。



俺はぼんやりとしながら近くにあった自然公園へ足を進めた。








自然公園の中は白を基調としたオブジェと木々の緑が霧の中で混じり合って不気味ながらも幻想的な雰囲気だった。
鳥の囀り一つ聞こえないその中をゆっくりと歩いていくと、湖が見える開けた場所に出た。

俺は手摺りにもたれかかって湖を眺めた。
曇天の空を映した鉛色の水。引き込まれそうだ。

いっその事、あの中に沈んでしまえば色んなものから解放されて楽になれるんじゃないか?

死への憧景にも似た感情が走った瞬間俺は手摺りに足を掛けて湖に向かって飛ぼうとた。

・・・しかし、それは叶わなかった。手摺りから足が離れる直前、俺は物凄い力で後ろに引っ張られた。
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