シリアス(?)

□Il mondo della quiete
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突然の事に体勢を立て直す事もかなわず俺は背中から地面に叩きつけられた。

「ッ・・・!」
「まったく。ようやく人を見つけたと思ったら・・・いきなり自殺しようとするとはな」

聞き覚えのある声・・・。
もう二度と聞くことは無いと思っていた声に、俺は慌てて起き上がった。


「バー・・・ジル・・・?」

目の前に居るのは、遠い昔にこの手で討ったはずの、俺の双子の兄。それが魔界に落ちていったあの時のままの姿で立っている。


「確かに俺はバージルという名前だが・・・お前は誰だ?自殺をしようとするような知人は居ないハズだが」

バージルに良く似た男は口の端を吊り上げて笑った。

「あ・・・済まない。良く似ていたから間違えたみたいだ・・・」

・・・そうだ、あいつが居る訳がない。
それに、男が着ている衣服は赤。あいつは青を好んで身に纏っていた。赤を纏う事は絶対に無い。

「似てるって、誰にだ?」
「っ!!」

男が急に顔を覗き込んできたものだから、俺は反射的に身を引いた。

「そんなに驚く事はないだろう?」

男は少し拗ねたようにムッとした表情を作った。

「す、済まない・・・」

バージルと顔も名前も同じなのに、あいつとは全く違う性格に俺は少し狼狽した。

「で、誰に似てるんだ?」
「あぁ・・・俺の双子の兄にそっくりなんだ。名前も同じだしな・・・」
「俺・・・そんなに老けて見えるか?」

男の表情が暗くなった。

「あ、いや、そうじゃない、生き別れた当時と同じ姿なんだ・・・」
「そうか、ならば良い。お前と同じ歳に見られたらショックどころじゃないからな」

男は楽しそうに笑った。

・・・あいつはこんな顔で笑ったりしなかったな。
他人だとわかっているのに、俺の兄のバージルが笑っているように感じて、頬が緩んだ。

「何だ、ちゃんと笑えるのだな」
「え?」
「この世の終わりみたいな顔をしていたからな。話の途中でまた湖に飛び込もうとするんじゃないかと心配していたんだぞ?」



心配・・・・か。


「どうした?」
「いや、何でもない」
「それならば良いんだがな。あ、そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。お前の名前は?」
「ダンテだ」

何だか身内に名前を聞かれてるようで、変な気分になるな・・・。

「ダンテか。良い名前だな」
「あんたはバージル・・・で良いんだよな?」
「ああ。ところでダンテ、お前はこの街の人間ではないな?」
「ああ」
「自殺の為にこの街に来たのか?」
「いや、目が覚めたら街外れの道路に倒れてたんだ・・・。どうやって来たのかまったくわからない」
「・・・アルツハイマーなのか?」
「違う!!」
「ははは!冗談だ。怒るな怒るな」

バージルは両手で俺の頭をガシガシ撫で回した。
何故か泣きたくなる気持ちを押さえて俺は口を開いた。


「・・・バージル、あんたはどうなんだ?」
「俺か?俺はこの街に住んでるんだが、朝起きたら住民が皆消えていてな。化物は徘徊してるわ霧で周りは見えないわで、何が何やらさっぱりだ」
「そうなのか・・・」
「これからどうするんだ?」
「取り敢えず、あっちこっち見て回ろうと思う。未だに状況が掴めないんでね。・・・あんたはどうするんだ?」
「お前は化物が徘徊する街の中に、兄そっくりの俺を一人置いていくのか?」
「・・・それも、そうだな・・・。一緒に行くか・・・」
「そうこなくてはな」

バージルはニッと笑った。

「さ、何処へ行く?案内してやる」
「何処へ・・・と言われてもな・・・」
「では病院にでも行ってみるか?」
「・・・俺の事、本気でアルツハイマーだって思ってるだろ」
「その可能性は否定できんな」

そう言ってバージルはまた笑った。

「じゃあ、病院に向かうか・・・」
「カルテがあったら笑えるな」
「ああ。見つけたら腹の底から笑ってやる」
「では行くか。・・・あ、化物が出てきたら俺を守るんだぞ?年長者なんだからな」
「わかったわかった。守ってやる」
「危なくなったら戦うがな」
「だったら始めから戦え」
「疲れるから嫌だ」
「まったく・・・」
「ダンテ」
「あ・・・」

俺が出発しようと足を踏み出した時、バージルが俺の手を掴んできた。

「霧がさっきより濃くなってきた。はぐれたら大変だろう?」
「あ、あぁ・・・」
「さ、行くぞ」


濃密な霧の中、俺はバージルに手を引かれながら病院に向かって足を進めた。
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