氷帝夢

□押しに弱い
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暖かな春の陽気の午後、講習が終わり大学の門をくぐり抜けようとした。
その時に同じ学部の女生徒に俺は引き止められた。


「長太郎くん…あの、私、君の事がっ」

「すみませんここでは、」


すぐに告白だってわかった。
初々しく頬を紅潮させる眼の前の人にここで最後まで言わせてしまえばこの人はきっと後悔する。
だって、いつもここにいるとあの子が来るから。

「長太郎さんッ!」

「や、やあ明日香ちゃん」

やっぱり来た。
くるくるとしたふわふわな髪の毛を揺らして俺に抱き着く。
愛らしくニッコリ微笑む、これでも立派な高校生。

さっきの子が俺と明日香ちゃんを交互に見ているのに気付いた。
俺とその子の眼があうと明日香ちゃんは俺から離れてその子の前に立った。

「そこのお姉さん、長太郎さんにどういった御用件で?」

「あっ、…別にたいしたことないの。また明日ね、長太郎君」

「すみません、さようなら」

その子はそそくさと笑顔を作って帰っていった。
なんだか申し訳なくて明日からどうしようかと思ったが大丈夫みたいだ。
友達の元へ行って笑顔で話している。
よかったのかな、と一息つくのもつかの間。
明日香ちゃんの声で我にかえる。

「長太郎さんは私の王子様何ですから気をつけて下さいね!」

「あははは…」


堂々とこんな事を言えてしまう明日香ちゃんに正直戸惑うが、過去の自分もこうだった気がする。
そしてもう一人を重ねて思い出すんだ。


「長太郎さんッ!」

明日香ちゃんとは違う低い声、この声は
「向日先輩!」

「今日も見せ付けてくれるじゃねぇか」

車の鍵をくるくると回して俺の肩を掴む。
今日は向日先輩の車できたのか、色々な人に頼んで連れて来てもらってるらしい。
中学の頃随分とあった身長差が嘘のようになくなっている事で顔がすぐ眼の前にある。
笑顔でいるのにかなりの重圧が感じられた。


「岳人くん、将来私長太郎さんのお嫁さんになるから!ジロー兄ちゃんと一緒に遊びに来てね。これはあの日から決まってる事だからね」

「へー…だとよ、長太郎・さ・ん」


そう、あの日…中学の時だった。



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