氷帝夢
□やっと言えた言葉
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今日は運がよかったんや。
たまたま人通りの少ない道を歩いているとそこにはずっと想いを寄せている明日香の姿があった。
周りには誰もいないのを確認して静かに近づいた。
何だか差ほど大きなじょうろでもないのにかなり不安定に歩いていた。
どうせなら手伝って優しい所を見せようか、
そんな下心を胸に抱いた。
誰だって好きな子の気を引きたいんや。
すると俺がもたもたしている間にバランスを崩して倒れた。
俺は咄嗟に受け止めに入った。
間一髪でうまく受け止め支える事が出来た。
キュッと目を閉じているのが可愛えとか思っとったが支えた時にじょうろの水を俺は被った。
明日香は眼を開けると濡れた俺を見て驚いた様に慌ててポケットからハンカチを出し俺に差し出した。
俺は当然驚いた。
何故なら彼女がこんな反応をするとは思わへんかったから柄にもなく戸惑っていた。
ただ差し出されたハンカチを見つめているだけやった。
彼女は痺れを切らしたのか俺の腕を引きハンカチで拭き始めた。
触れられた所に熱が灯る。
いつもは冷めている手が熱かった。
冷静な顔でいるのが精一杯で少しでも気を抜くとポーカーフェイスが崩れてまう。
拭かれている間に頑張って余裕を作ろうと緊張の隙間を探した。
「びっくりやわ、」
いきなり話しが飛んで当然不思議に思っただろう小首を傾げていた。
「何が?」
「やけに素直やし、俺明日香に嫌われとる思ってたわ」
「…へ?」
全然考えていなかったのだろう間抜けな顔をしていた。
「一年時明日香が俺と隣になったら嫌そうな顔しとったやろ」
あの時は浮かれていた。
入学して暫くたった頃に明日香のくるくる変わる表情に惚れていた自分がいて、しかもくじ引きで奇跡的に明日香の隣を引いた。
心踊らせながら席替えをしてこれを機会に近づこうとした。
やけど嬉しさを押し殺して出す余裕を粧った顔で話しかけると向けられたのは軽蔑の眼やった。
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