その他

□揺れる髪、赤い耳
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「小次郎!」

学校が終わり、日課のクラブへ向かう。その道の途中に呼び掛けられ足を止める。少し掠れた高い声の方へ振り向けば、そこには目を輝かせた奴が居た。

「なんだよ」

「なんだよじゃないよ!一緒に行こう。」

平然と当たり前のように横に並んで歩き出す。特に会話を交わす訳でもないが、隣で1つに結ばれた髪が歩きに合わせて跳ねているのには思わず目を止めてしまう。いつもフィールド上で走り回る中でも一際目立つ存在だ。つい目で追ってしまうこともある。そして触りたいと思うのも。

「え!何?」

「横でぴょんぴょん跳ねてるから」

跳ねる髪を掬うように下から持ち上げれば、驚いて振り向き声を上げる。日に焼けた肌に大きな丸い目がさらに大きく開いて困ったような顔をしていた。その顔が面白いと思いながら、触れた髪のしなやかさに何度も指を通す。好きにしたら良いと思ったのかそのまま前を向いて知らんぷりを始めたので、思うままに髪に触れていた。試合中に太陽の光に照らされて艶々と輝いていた姿が頭に浮かんだ。柔らかく、するりと指を通り抜ける感触が心地好いものだと思う。

「やっぱ髪綺麗だな、お前」

ポツリと感想を述べるとピタリと歩みを止めて言葉を無くした様子で驚いたままじっと見つめてくる。変なこと言ったのかと思ったがただ褒めただけだ。何も悪いことは言ってない。怒ったような、困ったような顔が何を意味しているのかわからない。ただ、そんな顔で見られるのがどうしてかむず痒く感じて視線を反らせるように奴の頭に手を置いてから離した。

「……ほら歩けよ。もう触らねぇから。」

「そ、そうじゃないでしょ!」

先ほどまでの固まっていた様子とは売って変わり、いつものように大きく声をあげた。

「じゃあなんだよ」

「なんでもない!」


そう言って、先に走って行った。その後ろ姿はいつも見ている姿で、1つに結んだ髪が揺れていた。先ほど触れた手触りを思い出しながらゆったりと歩き出す。前を走って小さくなる姿を見ながらふと気付いた。

「なんだあ?耳真っ赤じゃねぇか」


それを意味するのが何なのか。まだ知らない。


(揺れる髪、赤い耳)



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