本当に不本意で不本意で仕方がないのであるが。私は彼氏でありサッカー選手の堺良則にベタ惚れである。どうしてこんなに惚れてしまったのか。常に仏頂面で、いい顔するときは先輩の村越さんや緑川さんの前でが多いい。彼女である私の前よりも男の先輩に向かっていい顔するのが多いってどうなんだろうか。私にだってもっといい顔を見せてくれたっていいと思う。もっと甘い顔して、逆に私の前だけ眉間の皺をとってくれるっていうのも彼女らしくていいんじゃないかと思う。それに、どっちかっていうと私はあんな仏頂面のお堅い健康オタクよりも天真爛漫で子供みたいだけどちゃんと包容力のある人の方がタイプだったはずだ。それならば、良則といつも一緒にいるのを見かける丹波さんの方が私の好みには合っている気がする。それなのにどうしても、どうしても丹波さんよりも良則が好きだと思う自分がいる。理想と現実は違うというけれど、そんなもんなのか。でも、なんでなんで


「私は良則が好きなのかな?」

「は?」

思わず口に出した一言。夏の蒸し暑い夜に明日がオフと知った私は良則の家に押しかけて、特に様もなくだらだらと同じ空間を共有していた。そして私の思考からこぼれた一言は良則にとっては急なことだったらしく私に向けていつものように仏頂面を向ける。ほら、ほら、その顔。その顔が私に疑問を持たせているのだよ良則くん。


「だから、なんで私は良則と一緒にいるんだろって」

「…なんでだろうな」

「そこは、俺のことが好きだからだろとかいうでしょ」

「誰がそんな丹波みたいなこと」

一層眉間に皺をよせてしまう。というか、丹波さんってやっぱりそういう人なんだ。


「ねぇ、そっちはどうして私と一緒にいるの?好きだから?」

「何、別れたいわけ?」

あ、ちょっと落ち込んでる?特に表情が変わったわけでもなく淡々と言っているようだけどなんだか微妙に些細なところなんだろうけど落ち込んでる気がした。そんなこともわかるようになるくらい時間を共有していたんだなと思うと少し照れる。私が黙っているとそれが肯定しているように思えたのかこちらを見ていた顔をそむけた。あぁ、ちょっとちょっと良則くん。私にそんな仏頂面の顔さえも向けてくれなくなるっていうのですか。それは流石に悲しいってば。そう思って熱いにも関わらず腰に抱きついて下から見上げてみた。

「別れたいなんて思ってないよ。だからさ、こっち見てよ」

ちょっと甘えた声を出してみる。この声に良則が弱いこともわかっている。でも自分からしたら自分のこの声は気持ちが悪くて仕方がない。そして良則は私の方に顔を向けてくれた。


「ありがとう」


そう笑えば仏頂面がだんだんと赤くなっていく。どうしたんだろうか。別に抱きついたり、笑顔を見せたりするなんてよくあることだし、ましてやこんなことで赤くなったことなんて一度も見たことがない。

「…」

「なんだよ」

「顔、赤いね。熱?」

「は?」


熱はなさそうだけど一応額に手を持って行って測ってみる。抱きついているから額に手を当てなくてもわかってはいるけれど、一応形式というものをする。うん。熱はない。


「あーもう、俺だっせぇ!」

いきなり大きな声を出したと思ったら額に当てた手を取って力強く抱きしめられる。なんだなんだ。いきなりどうしたというのか。

「何何?どうしたのよ」

「…」

「黙ってたらわからないよ?」



「…なんか、俺だけがお前のこと好きみたいだ」

ぼそぼそと聞き取れるか聞き取れないか程の小さな声で言われた。え、何なの本当に。この不意打ちはなんなの。やばい、私の顔も赤くなってきた。


「不安なの?…大丈夫だから、私もちゃんと好き」


私がそう言って抱きしめ返すと安心したような、ほっとしたような顔が私に向けられた。いつも眉間に寄っていた皺はなくて、笑ってるっていうのかなんというか。でも、多分こういう普段見せない表情が私に好きという感情を抱かせているのだと思った。どんなに私にいい顔を向けなくても、どんなに仏頂面ばっかり私に向けても、一瞬の、たまにしか見れない…きっと私にしか見せない表情が私を捕まえる。愛されているからその分私も愛を返す。良則が私に愛を送らなくなるまで、私はあなたが好きと思い続けるのだろう。



give and take
(それが世界の掟)

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堺さんのふとした仏頂面じゃない顔に胸打たれるのです

拍手ありがとうございました






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