*旅の日課編 2* 「……またそういうことを言う…」 また言い出したと言わんばかりに悟空が少し困って言っても、それこそ毎度のことだと彼女はどこ吹く風だ。 「あら、言っちゃいけなかった?」 「……そういうわけじゃねぇけどよー…」 「もしかして、まだ本気にしてないの? 私はこんなに真剣だっていうのに」 「…いや、お前が本気なのは分かってるけど…」 本気だからこそ余計扱いに困るのだろう、悟空が何かを言い渋っている。 しかし、それこそが分かっていないと思う。 「あのね、悟空。毎朝私が早起きするのだって、朝の準備があるからなのもだけど、悟空に会える時間を少しでも多くするためなのよ?」 そうじゃなければ、女だからとて早く起きたりはしない。 化粧だって着替えだって手早くやれば済むことだ。 「悟空がいつ起きてくるか分からないから、私は早く起きて待ってるの。当たり前でしょ?」 本当に当然の事のように自信満々に言われても、 「……あのさ」 「なに?」 「あんま…そういうことばっか言われると、困るんだけど」 悟空にしてみれば更に困ってしまうだけなので勘弁願いたい。 彼女が本気なのは分かっている。 分かっているからこそ困るのだ。 だって。 「オレ、慣れてねぇからなんて言っていいか…」 照れたような、どうしていいのか分からない様子で悟空はつい俯いてしまう。 何だかそれが。 「あぁもうかわいい!」 「ぎゃあぁぁあぁあぁ!」 可愛くてツボど真ん中で、思わず。 「抱き着くなよ!」 「いいじゃない。減るもんじゃないし」 顔を真っ赤にしながら悟空が慌てて逃げを打つものの、それを逃がす彼女ではない。 腕を回してしっかりホールド済みだ。 それでも悟空はジタバタと手足を振り回した。 「いや、なんか減る気がする! 何かは分かんないけど何かが!」 「気のせいよ。でもそう思うなら殴ってでも押し退ければいいのに」 振り回す手は空を切ってばかりだ。決して彼女に振り下ろされない。 本気で嫌なら、悟空なら確実に振り解けるだろう。彼女も強い方だが、純粋な力で言うと悟空に敵うものは一行にいない。 けれど、そうすることで彼女が傷付くかもしれないから、悟空は決してそうしない。 そんなところが。
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