Clap Novel

□聖夜物語
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T.雪降る出会い




あるところに、1年中雪が降り続いている小さな国があった。

その国に住むのは、"サンタ"という、子供達に1年に1度、クリスマスの夜にプレゼントを配る大切な仕事をしている1族と、彼らサンタを支え、共にプレゼントを届ける"トナカイ"という1族。

彼らは世界的有名なイベント"クリスマス"において、とても重要な役目を担っていた。

クリスマスまで1ヶ月というだけあって国は賑わい、数多くのサンタがパートナー・・・トナカイと共に、子供達にプレゼントを配る準備を始めている。

そんな中、1人フラフラと町を歩く、男のサンタの姿があった。

彼の名前は神威がくぽ。

いっぱしのサンタとなって随分経つが、彼にはパートナーとなるトナカイがいなかった。

パートナーとなるトナカイがいなければプレゼント配達に行く事は出来ない。

彼は降り続ける雪に向かってため息をつき、呟いた。

「あー・・・僕も届けたいなぁ・・・子供達に・・・プレゼント・・・」

同期の仲間達は皆パートナーのトナカイを見つけ、もう立派に仕事をこなしている。

がくぽだってパートナー探しを怠けていた訳ではないのだが、仕事をするにあたって気の合うトナカイに出会えなかったのだ。

この国では仕事のないサンタなど、必要のない存在である。

その為がくぽは誰からも相手にされず、1人孤独感に苛まれていた。

その時だ。

「・・・・ん・・・・?」

積もった雪の上に茶色い塊を見つけ、がくぽは目を見開く。

茶色い服を着ているのはトナカイ族だという証。

彼は、そのトナカイにそっと近づいていった。

「・・・何ですか」

近づいて来る足音に気がついたのか、トナカイが顔を上げ口を開く。

その姿に、がくぽの目が再び見開かれた。

透き通った水のような深い水色の瞳に、桃色の美しい髪、雪のように白い肌。

自分と同じ位の歳の女のトナカイが、雪の上に座り込んでいたのだ。

「あ・・・さ・・・サンタです」

彼女の問いにがくぽはそう答えた。

突然の事に、頭が回らなかったのである。

「・・・見ればわかります」

彼女は言った。

「そ・・・っそうだよな・・・」

沈黙。

彼女は誰かを待っているかのように、雪の上から動こうとはしない。

「あっ・・・あのさ」

がくぽは言う。

「君・・・1人なの?」

「はい」

すぐに返ってくる返事。

しかし、彼女は手に真っ白な袋を持っていた。

それはトナカイがサンタのパートナーになる時に、契約の証として渡される物だ。

「でも・・・袋」

「拾いました」

「拾ったって・・・てか、寒くないの?直に・・・雪の上・・・でさ」

「トナカイに寒さなど関係ありません」

がくぽの質問に彼女は淡々と答えていく。

「なら・・・いいんだけど・・・もう1度聞くけど、君は本当に1人なの?」

「はい。私はもう、必要ないそうです」

「必要・・・ない・・・?」

「言葉通りです」

そう言って、彼女はがくぽを見上げた。

「だからって・・・こんなところに・・・「私に帰る場所はありません。それに、寒いのは苦ではありませんから。そんな事より、貴方こそいいんですか?皆忙しそうにしていますよ」

その言葉に、がくぽは黙って彼女の横に腰を下ろす。

「僕も・・・1人だよ」

彼の言葉に、少しの間をあけて彼女が言った。

「・・・そうですか」

再び2人の間に沈黙が訪れる。

がくぽは彼女を見つめると、決心したように口を開いた。

「ねぇ、僕と一緒にいこうよ」

その言葉に、彼女の表情が僅かに変わる。

彼は続けた。

「君となら何だかやってけそうな気がするんだ。前の主人みたく・・・君を捨てたりは絶対にしない。子供に喜びを届ける仕事は、僕の夢だった。お願いだ。手伝って・・・欲しい」

「・・・夢・・・ですか」

彼女が言う。

がくぽは頷いた。

「そう。夢」

彼女はじっと彼を見つめている。

そして、小さく息をはくと言った。

「いいですね。興味があります」

「って事は・・・」

「貴方のパートナーになります」

「え、本当に!?」

「なぜ驚くんです?」

「や・・・だって・・・今までパートナーいなかったから・・・嬉しくて」

がくぽの言葉に、彼女は目を見開き言う。

「喜んでいただけたなら幸いです」

そうは言うものの、あまり表情の変わっていない彼女。

そんな彼女に、がくぽは困ったように言った。

「晴れてパートナーになったんだからさ、もうちょっと砕けた感じで・・・えっと・・・名前・・・「ルカ・・・といいます。それに、サンタは敬うべき存在です。それは貴方もわかっているはずでは?ご主人」

「ご主人・・・僕、がくぽっていうんだけど・・・名前で呼んでいいよ?」

「ご主人はご主人です」

しかし、彼女・・・ルカは依然として淡々と言うだけだった。

がくぽはそんな彼女に微笑みかけると言う。

「そうか・・・とりあえず・・・これからよろしくな。ルカ」

「・・・・はい」

伸ばされた手。

ルカはそれを迷う事なく握り返した。

降りしきる雪の中に、2つの影が伸びる。

小さな出会いから始まった、サンタとトナカイの物語。

それはまだ、始まったばかり・・・・










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