Clap Novel
□聖夜物語
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U.トナカイとサンタ
「ルカルカ。そこの・・・そこにあるプレゼント。それ、貸して」
「・・・・はい」
今までパートナーとなるトナカイのいなかったサンタ・・・神威がくぽの元にパートナーのトナカイ、巡音ルカがやって来て数週間。
晴れて仕事が出来るようになった訳で、早速2人の元にプレゼント配りの仕分け表が来たのだ。
この世界には何十万と子供がいて、今いるサンタだけでも仕事は回らない程であった。
その証拠に、がくぽとルカに割り当てられたプレゼントの量も、半端ないものである。
これを今から、仕事当日であるクリスマスまでに、地域や国ごと、自分達が配達する際にわかるように分けなければならないのだ。
「いやぁ・・・わかってはいたけれど、実際やってみると大変なんだなぁ・・・ルカ、大丈夫?」
「大丈夫です」
気の遠くなるようなプレゼントの量にがくぽは思わずため息をつく。
それでも、傍らのパートナーを気遣い、声をかけてくれる様にルカ・・・彼のパートナーである彼女は、驚いたように言った。
「どうして・・・私を気遣ってくれるのですか?」
「・・・え・・・?」
ルカの言葉に、がくぽの目が見開く。
「どうしてって・・・当然の事だよ。同じ仕事を一緒にこなす訳だし・・・何より、トナカイがいるおかげで僕達サンタは、仕事が出来るんだからさ」
「私達が・・・いるから・・・?」
がくぽは言った。
サンタがトナカイと仕事を共にするのは、トナカイが彼らサンタを目的地まで無事に運んでくれるからである。
その日の天気や街の雰囲気、プレゼントの届け先の状態、そこへの最短ルート・・・など、サンタが無事にクリスマスにプレゼントを配れるのも、全てトナカイがいてくれるからだ。
「そ!!そんなルカに感謝できる時なんて・・・今位しかないと思ってさ。本当なら・・・僕が仕分けを全部やるべきなんだろうけど」
がくぽのそんな言葉に、ルカの顔が下がった。
「・・・ルカ?どうし「トナカイは・・・サンタに仕えるべき存在。サンタの為にこの身を尽くすのが仕事です。貴方の考えは・・・私には理解出来ません」
心配そうに言う彼をさえぎって彼女は言う。
「理解出来ないって・・・じゃあルカはさ、前の主人とどんな暮らしをしてきたの?その・・・尽くしてきた・・・訳?毎日毎日」
がくぽの問いに、ルカは表情ひとつ変えずに答えた。
「・・・仕分けの仕事は、私1人の仕事でした。寝る所も貴方のように用意してもらわなかったし・・・食事は貰っていましたが。そこまで美味しい、という訳ではありませんでした」
彼の目が見開かれる。
「・・・ご主人?」
不思議そうに、ルカは言った。
「どうしましたか。具合でも「お前・・・そんな暮らし・・・そんな事されて、何も思わなかったのか?」
「思う・・・とは?」
なおも不思議そうに、彼女はがくぽに尋ねる。
「トナカイとサンタの関係は・・・そういうものではないでしょうか。だから、私は貴方の考えが理解出来ないと「違う!!!!」
さえぎられた言葉。
ルカは目を見開き、がくぽを見つめている。
「ご主人・・・?」
「違う・・・そんなの間違ってる・・・!!サンタは・・・僕達は、トナカイをそんな風に扱える資格なんてない!!!どこにも・・・」
顔を歪ませて彼は言った。
その手はきつく握りしめられている。
「・・・それは・・・貴方の「ルカ!!!」
ルカの華奢な肩を掴み、彼は言った。
「僕は・・・そんな考え認めない。仕分けだって一緒にやるし、お前1人に全てをやらせるつもりはないよ。それじゃあパートナーじゃないじゃないか。昔の主人がどうだったかなんて知らないけど・・・僕はそんなの・・・嫌なんだ」
彼女の過去を思うと、とてもやりきれない。
それが当たり前だと、トナカイはサンタに従い尽くすものだと毎日を過ごし、いらなくなったからと棄てられてしまうなんて。
「サンタの夢を叶えてくれる・・・大切な存在なのに・・・」
肩を掴んでいた腕はルカの体を引き寄せ、優しく抱きしめていた。
一方ルカの方は、目を見開いたままがくぽにされるがままになっている。
「・・・ご主人・・・?」
「・・・サンタは・・・皆トナカイの事を・・・そう思っているのか?」
続けられた言葉。
「・・・少なくとも・・・貴方のようなサンタは・・・あまりいないのではないでしょうか・・・「ごめん」
ルカの言葉をさえぎってがくぽは言った。
彼女を抱く腕の力が強まる。
「・・・ごめん。ごめん・・・僕達が非力だから・・・トナカイの力をかりなければならないのに・・・「謝らないで下さい」
ルカは言った。
「貴方のような・・・サンタに出逢えて良かった・・・そんな事を思ってくれる、サンタがいてくれたのですね」
「・・・ルカ・・・」
「貴方に出逢えて・・・良かったです」
雪はしんしんと、静かに降り続く。
クリスマスまで後一月となった、ある日の事だった。
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