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□交わった平行線
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*3年後ネウヤコで、ネウロ帰還直後のお話。
―・・・夢かと思った。
懐かしい青のスーツが見えた気がしたかと思うと、それを映していた飛行機の窓ガラスが一瞬にして割られる。
この高さでそれはないんじゃなかろうか、なんて反論のしようがない。
物凄い風が機内を走りぬけた・・・筈なのに。
機内も割られたガラスも元通りで、何事もなかったかのような時間が流れていた。
「・・・ようやく見つけたと思えば・・・こんなところにいたのか、ウジ虫め」
「・・・・・な、あ・・・・・」
確か、自分の隣には誰も座っていなかった筈だ。
しかし、今正に隣にいたのは、あの日と変わらない笑みを浮かべて真っ直ぐに自分を見つめる魔人・・・脳噛ネウロだった。
「ど・・・あ・・・う・・・「ム?どうした、世界を飛び回り過ぎて言葉も忘れたか?」
怪訝そうな表情で彼は問う。
そして、何か思い出したようにこう言葉を続けた。
「ああ・・・我が輩の事なら後で吾代に何とかさせれば良い。あの奴隷もそれ位の事もうお手の物だろう・・・さてヤコ」
どうやら魔界道具を使っているらしい、本性丸出しで言うネウロ。
その姿に、先程から混乱が収まらなかった弥子も、ようやく落ち着いてきたようだ。
小さく息をはき、彼女は口を開いた。
「・・・な、に」
「一体、この世界は我が輩が帰ってから何年が経った?」
「・・・3年、だよ」
「ほう、で・・・貴様は何故ここにいるのだ?」
「私は・・・アンタが魔界に帰ってから、世界を渡り歩く事にしたの。沢山の人と話をするために、沢山の想いを知るために」
そして・・・アンタが還ってきた時には対等な立場で、アンタの力になれるように。
私の進化を望んだ・・・アンタをガッカリさせないように。
ネウロの問いに、弥子はこう答えた。
彼女の言葉を聞き、彼の目が細められる。
「・・・確かに、貴様の黒瞳は今の方が真っ直ぐではあるな・・・見かけは昔と同じ、貧相なままではあるが」
「貧相言うな・・・私も、聞きたい事・・・あるんだけど」
「ム?」
「・・・体調は万全な訳?」
返された問いに、ネウロは少しの間をあけてこう言った。
「・・・出来うる事はしてきたつもりだが・・・まぁ、完璧ではないにしても、我が輩には"相棒"がいるからな」
その言葉に、大きく見開かれる弥子の瞳。
「・・・今の貴様は、あの頃以上に進化しているのだろう?」
「そ・・・だけど・・・っ・・・」
「何なのだ貴様はさっきから・・・我が輩に言いたい事でもあるのか?」
どうも煮え切らない様子の彼女に、ネウロは露骨な表情をして問いかける。
「その・・・っ・・・うぅ・・・」
その問いに答える代わりに、弥子の瞳から大粒の涙が溢れたのだ。
彼の表情が少しだけ驚いたものに変わる。
「ごめん・・・すぐに止め・・・から「全くだ」
そう言葉をさえぎられ、懐かしい力で腕を引かれた。
弥子の瞳が、再び見開かれる。
「いつも言っているだろうに・・・貴様は泣くのではなく笑うべきだ、と。まぁ・・・その顔で笑われても、気持ちのいいものではないが」
いつも以上に近くで聞こえるネウロの声に、視界いっぱいに広がる青。
少し低めの体温が自分を包み、彼に抱きしめられているんだと理解するまで、数秒の時間が必要だった。
「な・・・あの、えっと・・・」
「ム?」
「何か、裏でも「裏?何を言っているのだ貴様は」
ネウロがこんな風に自分を抱きしめるなんてどうかしてる。
弥子の言葉が癪に障ったのか、ギリギリと腰を締め上げて、彼は言った。
「魔界に帰っても頭をよぎるのは貴様の事ばかり・・・予想以上の進化をとげていた貴様に、褒美を与えたつもりだったのだが・・・僕を疑うなんて・・・酷いです、先生」
「痛い痛い!!!ごめんって!!!ちょ・・・ギブ、ギブ!!!」
懇願の末、ようやく力を緩めてくれたネウロ。
抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなって、弥子は彼の大きな背中に腕をまわしてみる。
と、再び優しい力で抱き返されたのは気のせいだろうか。
そういえば、いつの間にか涙も止まっている。
「・・・ネウロ・・・」
「・・・何だ」
「・・・おかえり」
弥子が1番言いたかった事。
その言葉に、ネウロの瞳が嬉しそうに細められた。
「・・・帰ったぞ、ヤコ」
「・・・ん・・・」
3年の時を経て、再び交わった2人の平行線。
名探偵桂木弥子と、その助手の新生コンビが初めての"謎"に出会うまで、後 数時間。
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彼らを自然にイチャつかせるのは案外難しいと実感。
精進せねば・・・(;^_^A
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