オリジナル

□雲人
1ページ/1ページ

あぁ、五月蝿い。なんの音だ。
機械的な音が脳内に響く。聞き覚えはあるのだ。ただ、不快で耳を塞ぎたくなる。
ショパンのノクターンだ。
わかった瞬間、目が覚める。
家の電話の着信音だ。未だに鳴り続けている。
急いで起き上がり、電話に手を伸ばす。
『あぁ、やっと出た!原村先生ですよね?』
安堵と焦りの混じる声。同僚の、水野千晶だ。
「水野先生?」
ちらりと、時計を見る。真っ暗な部屋でよく目を凝らせば、ぼんやりと見えた文字盤は3時24分を指していた。
「こんな時間に…どうしたんですか?」
千晶には携帯の番号を教えてある。私事ならば、携帯にかけてくるかメールしてくるだろう。
学校に関連することだとしても、こんな時間にはかけてこないはずだ。
少し、心拍が早くなるのがわかる。
まさか…
『先生が担任する中西実未の両親が先ほど、亡くなられたようなんです』




高校生活も今日で2年目に突入しようとしていた。桜の花が散った道を、実未はゆっくり歩く。
学校に近くなるにつれて、足が重くなる。
新しい出会いの季節と言ってしまえば聞こえは良いが、一年かけてやっと馴染んだクラスを離れ、また一年かけて新しいクラスでの自分の居場所を見つけなければならないのだ。
高校生にとって、それは苦痛だ。友達関係も変わってしまう。そんなクラス変えがある。
この信号を渡り、少し歩けば高校だ。靴が履き慣れたローファーでなく、鉛のように感じる。
「おい」
すぐ後ろから急に声がする。
「え…」
振り返れば、赤に近い茶髪が目に入る。次に、実未と同じ高校の制服だ。
「原村くん…」
去年同じクラスで、高校の教師の原村槙乃の弟の、原村刹那が不機嫌そうな顔でいた。耳にはピアスの穴があいていて、制服は見事に着崩されていた。
それがいかつく見えないのは、兄譲りの整った顔のおかげだろう。
「信号、もう青だぞ」
早く渡れよ。
そう促されてるのがわかる。
「あ、うん」
ローファーを履いている足が、まっすぐ進む。軽い。
刹那が自然と、実未の隣に並ぶ。話しかけてくるわけでもない。
お互い無言のまま、校門につく。一歩校内に入ると、刹那はまるで何もなかったように早足で行ってしまった。
もしかして、ちゃんと学校まで来れるように、一緒に歩いてくれた?私が途中で逃げないように、見張ってた?
一瞬そんなことを考え、すぐに否定する。そんなわけがない。
去年、同じクラスだったとは言え、とりわけ仲が良かった記憶はない。
なら、何故?
「実未、こんなトコで何ボーっと突っ立ってんの」
去年同じクラスで、そこそこ仲良くしてた子に話しかけられる。
「え?」
「早く行かないと。新学期早々遅刻になっちゃうよ」
ばしんと力強く背中を叩かれる。
「あ、うん」
そのまま、腕を引っ張られるように下駄箱の前までつれてかれる。そこに、新しいクラスが張り出されているのだ。
「うっわ、琴葉と同じクラスじゃねぇかよ」
「刹那うるさい。私と同じクラスとか喜ぶところでしょ」
近くで、そんな会話が聞こえてくる。さっき実未と歩いていた原村刹那と、その従兄弟の市ノ瀬琴葉だ。従兄弟というだけあり、原村兄弟と同様に顔が整っている。刹那ほどではないが、校則すれすれの格好で、目立っていた。
「実未、私たち同じクラス!」
一緒にいた子に言われ、刹那から目を離す。
ずっと見つめていた。気づかなかった。
見つめていた?何故?
「実未?」
きいてる?と首をかしげられる。
「ごめんごめん、教室、行こうか」
あぁ、しんどい学校生活が始まる。



教室に入って目についたのは、やはり赤茶色の髪だった。男女別に番号順、隣の席。
少しすると刹那が実未の視線に気づく。
「なんだよ」
「別に」
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ