『さ、みんな食べて食べてー』
「……手抜き」
『…ん?東はいらないようだねーみんな、東の分は気にしないで』
「いや、嘘です!嬉しいから俺の分無くさないでっ」
にっこり笑顔で言って退ける姿に東が慌てる。
明らかに怒っているのが伝わり、東以外無言。
本日、2月14日は乙女が張りきるバレンタインデーである。
「まぁ、嫌いじゃないけどよ」
「私は嬉しいぞ!チョコフォンデュ」
「一度やってみたかったから、私も嬉しいわ」
業務諸々終わるなり、いそいそと用意していたらしい"チョコフォンデュ"を出してきた彼女。
みんな朝から渡す様子のない彼女に貰えないと諦めていたら、だ。
全員一緒とゆう…
寿と夏が嬉しそうに"チョコフォンデュ"を見ているなか、複雑な表情の班長に俺も苦笑い。
「ま、らしいと言えばらしいですね」
「そうですね…」
「仕方ねぇ、食うか!」
みんなが大好きな彼女らしいと目を細める京平先輩に俺も頷く。
切り替えるように言った班長がフォンデュ用のフォークを取った。
すると嬉々として寿と夏が食べ始める。
あまりの早さに俺や東先輩は慌ててフォークを持った
『実はだね』
「「ん?」」
『このチョコフォンデュ、当たりがあるのだよ』
「…当たり?」
意外と甘さ控えめな"チョコフォンデュ"に食が進んでいると、自信満々に彼女が言った。
みんなが不思議そうに目を合わせるなか、効果音が付きそうな勢いで口を開く
『お願い一つだけ聞いてあげる!』
「!」
『本当は別にチョコ作る予定だったんだけど、時間無くて…』
「…。」
『当たりはね、果物の中にハートが一つだけある、よ……え』
健気な彼女にみんなが優しいなぁと思うのも束の間。
当たりを聞くなり気持ちがひとつになったように、誰もが果物だけを食べる
『…目がギラついて見えるのは、気のせいかな』
すごい形相で果物だけを黙々と食べていく。
そんなみんなを見て、ちょっと背筋がぞくっとした…
「あ…」
「「「!!」」」
ザッ ザザザッ──
俺の声に反応した3人がすかさずフォークを果物に刺す。
4本のフォークが刺さったハートの苺。
「……。」
「……。」
「…。」
「…えっと、」
睨み合う班長、寿、東先輩。
挟まれた俺は苦笑いでただ困った。
「雨丸が一番早かったんじゃない?」
「んーそうかもね」
『そうだね、雨丸以外フォーク取って』
どうしようかと思っていると、京平先輩が助け船を出してくれそのまま夏も頷く。
二人の言葉に頷きながら彼女も肯定する
「えー」
「納得いかねぇ」
「いたっ!え…なんで俺?」
不満そうな寿と班長。
班長に至っては東先輩を蹴りにかかっている
渋々3人がフォークを抜くと、確かにハートの苺が刺さっていた。
スッと細い手が俺のフォークを受け取りチョコに苺を絡める
『はい、あーん』
「な、え…?」
『あーん…?』
「…あー…ん、美味し…」
『ふふ、良かった』
苺が口元に寄せられ、微笑を浮かべた彼女に断れずおずおずと口を開いた。
口内に広がるほんのり甘いチョコと酸っぱさに目を細め、嬉しそうに笑う彼女にちょっと照れた─
(余裕だな、京平?)(おれはチョコあげましたから)(な…?!)(そうゆう作戦があったか…)(私もよ)(抜け駆けか夏)(ごめんね、寿)(ホワイトデーに頑張る)(あれ、俺の当たりって…)
end....