よろづ短篇

□クラスメイト。
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「…」
「…」

…困っています、いますっごく。

どこのクラスにもひとりはいると思う。女子に対して、「近づくな」ってオーラを放っている男子。
無意識か意識的にか知らないけれど、いまあたしのとなりにいる男子、日吉若はまちがいなく、そのタイプだ。


中学2年、夏の自然学習実習。
…という名の、キャンプごっこ。

お金持ちのおぼっちゃんおじょうさんがわんさかいる学校だ。本当の本当に人里はなれた野っ原で「自然」学習なキャンプなんてやったら、そうでなくても親バカで過保護な気風の高いウチの学校の父兄たちは、大手を振って文句をつけてくるに決まっている。

そんなわけで、学校が有する展望風呂付きの臨海施設にて、ただいま氷帝学園2年生は優雅に「自然」学習中。

みんなでお泊りとなれば、当然やってくるイベントが肝試し。
かくして日もすっかり落ちた午後九時(微妙に早い)、あたしのクラスはくじびきで決めた男女ペアで、隣接するいかにも人工っぽい林を散策することになったのだった。


…そして、冒頭に戻る。

(き、気まずいなー…)

運がいいんだか悪いんだか、あたしが当たった相手は、日吉若。
氷帝学園男子テニス部の準レギュという、まあ男子の中じゃ花形クラスだ。
…しかしねえ。

「…」
「…」

なぜにここまで無言なのか。

話しかけても素っ気無い返事しか返ってこないし。
身長差だってあるのに、歩調合せてくれないし。
冗談で「きゃー」なんて抱きついたりしたら、古武術だかなんだかで退治されそうな雰囲気だ。

正直あたしは、暗がりを歩いていることよりも、日吉若と一緒に歩いていることのほうがよほど恐ろしかった。

(どうせ同じ男テニなら、鳳くんのがよかったなー…)
たまにうさんくさいほどさわやかな鳳くんは、クラス一の美女(かつクラス一性格が悪い)とペアを組んでいる。あれ、ぜったいくじに何か仕掛けてあったんだと思う。

(さすが政治家の子息の巣窟。肝試しのペアくじびきでさえ、偽装工作の場ってわけか…)
そんなことを思っていると、日吉くんがふと立ち止まった。

「…ど、どうしたの?」

日吉くんが黙って指差した先には小さな鳥居。肝試しの折り返し地点だ。

「あそこからろうそく取ってくればいいんだよね、確か」
あたしが言うと、日吉くんはかすかにうなづいて、またさっさと歩き出した。

…返事くらい、してくれたっていいじゃん。

後ろでこっそりしかめっつらをしてやって、日吉くんの背中を追いかけようとした、そのとき。

がさささっっ、と、何かが通り過ぎたように、かすかに木立が音を立てた。
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