棗はものすごくかっこいいだと思う、外見はね。じゃあ中身は?
それは秘密。ウチだけが知ってればいいんだから。
どうしたん?蛍。えー、やっぱりウチ棗馬鹿かなぁ?しょうがないじゃん
だーいすきなんだもん。そ、そんな細い目で見ないでよぉ!
でも、蛍だって流架ぴょん馬鹿でしょう?あー顔赤いよ。
……って痛い!恥ずかしいからって馬鹿ン銃で撃つなぁ!








       いまを忘れない








「じゃあ、あたし流架君のところ行くから」
「はいはい、蛍はホント流架ぴょんが好きやな〜」
「…………はぁ〜、あんたも棗君と約束してんでしょ?」
「うん、今日は棗んとこ泊まるつもり」
「そう、あたしもよ。タカハシさんに見つからないようになしないと」

タカハシさんってのは、寮の監視役みたいな人だ。あ、違う。
人じゃなくてロボット。ものすごく厳しくて、夜出歩いてたら
すぐに先生にちくるんだ。まったく、そのせいで何度
神野先生に怒られた事か。まぁ、ウチが悪いんだけどね。
高等部にあがって、蛍と流架ぴょんは付き合いだした。
あのクールでシビアな蛍が、流架ぴょんの前では顔真っ赤にしたり
甘くなってたり面白いんだ。流架ぴょんいわく、それはツンデレ
っていうらしい。えっと、ツンデレって何?……とにかく!
そんな訳で、蛍はよく流架ぴょんの寮に行く。タカハシさんに
見つかったことは一切ないんだ、さすがだよね。

ギィ―――……バタン……

控えめに閉じる扉。ウチは部屋で9時になるのを待っていた。
棗はまだ任務だから……あ、でも任務って行っても、
危ないヤツじゃないよ。昔棗と一緒に行った事があるんだけど、
小さい子達の面倒をみるっていう任務だった。もう任務って言えないよね。
初等部の頃は色々危ない事やってた棗だけど、今はそれを
やっていない。何でかってのは言わなくても分かるだろうけど。
―――必要なくなったから、棗はもう危ないヤツじゃないし。
でもどんなに棗が変わっても、昔やってた事―――過去は変わらない。
その過去でやってしまった事を、罪を洗い流すように、棗は
任務……っていうか仕事をやってるんだ。一生懸命やってるみたい。
そうそう、あのペルソナもそんな仕事をやってる。やっぱあの頃と
性格とかは変わってないけど、時々、本当に時々、笑うんだ。
で、その笑顔に皆がメロメロになっちゃうんだ。今年のバレンタインとか
ペルソナ先生大変そうだな、去年は確か……ものすごかったような。
鳴海先生にひやかされてたんだよね「先生もてますね〜」って。

アリス学園に来て、何年かたった今。ウチはものすごい幸せになれた。
色々あったけど、だからこそ分かる幸せ。後1年でこの学園を
卒業しなきゃいけない、悲しいな。もっと居たいのに。





「―――どうした?」

扉を開ける音はしなかったのに、ウチの後ろには棗が居た。
あれ、いつ来たんだろ?しばし呆然としてしまう。

「な、つめ?もう帰ってきたん?」
「あぁ、今日は早くきりあげたんだ、それなりに気合入れてきたのに、なんか拍子抜け」
「あはは、そんな日もあるよ。……あれ?今日はウチが棗の寮に行く番じゃ…?」

ごろんと適当な場所で棗は寝転がって、ウチを見上げる。
じいっと、なんか猫みたいな目ぇして。まったく、誘ってるのか?
かっこよすぎるんだよ、馬鹿ぁ。絶対言ってやらないけど。

「別に、なんとなくだよ。びっくりさせようと思ってさ」
「へへ、驚いたよぉ」
「……なぁ、何でさっきあんな顔してたんだ?」
「え?」

あんな顔?え、ウチどんな顔してたっけ。

「ぼうっしてて、なんだか悲しそう……だった」
「え、そうやった?ウチ……」
「なんかあったのか?」

そんな事言われても、別に何もないはずなんだけど。なんだろう?
うーんっとうねるウチに、棗は苦笑している。もう、何やねん阿呆。

あ……あった。

その悩み(って呼んでいいのか分からないけど)はホントしょうもないもの。
多分、誰でもある気持ち。さっき思ってたばかりじゃん。

「ウチな、なんだろう、いまが全てなんだと思うんだけど」
「……で?」
「で、いますっごい幸せなの。だから、卒業するのが恐い」
「仲間がいるから、とか?」
「うん、そうなの……」

仲間がいるって事、それは素敵な宝物。離したくない、離れたくない。
でも、それはもうすぐなくなってしまう。それがひどく悲しい。
ウチは寝転がってる棗の胸に、顔をうつぶせで乗せる。
棗の手が頭に触れて、撫でてくれてる。あぁ、大きな手だな。

「俺も、嫌だな」
「……うん」
「でもな、みかん。それはしょうがない事だろ」
「……うん」
「それと、お前は勘違いしてるぞ」
「な、にを?」

半身を起こした棗は、ウチの唇に人差し指を押し付けた。
そのまま唇をなぞる。ドキッとした。大人っぽい、すごく。
口が開いてしまったウチに、棗はキスをする。

「……ん……んぅ……」

30秒くらいでキスは終わってしまった。離した口から出る液が
恥ずかしくて、制服でごしごしとる。

「仲間は学園にいなくても、会えるだろ」
「え…?そ、それはそうだけど!でも…」
「でも、何だよ?お前はこれ以上の幸せはないと思ってるのか?」
「…………あ」
「幸せの裏側を恐れるのは分かる、だからこそ今を生きればいい。でもな、
      将来の事は誰にも分からないんだから、いいように考えようぜ」
「棗……」
「俺にそう教えてくれたのは、お前だろ?」

棗ってば、恥ずかしいのか目をつぶっちゃってる。まったく、可愛いなぁ、棗は。
不覚にも棗の言葉にジーンときてしまったウチの目には、数量の涙。
ウチが教えたって言ってるけど、そんなの教えた覚えはない。

「ありがとう、棗」







あとがき

棗×蜜柑で甘甘・高等部でお願いします。というリクエストでしたが、
なんかシリアス入ってしまった…orzごめんなさいですレイナさま。
棗が言った事は、何気にひぐらしのレナが言ってたりなんだり。
すごく素敵な言葉です。今が幸せな皆、それはこれからも続くよねって感じ。
実はまだ続きがあったのですが、変な事になったので消去しました。
おかげで中途半端なできにorzレイナさま、リクエストありがとうございました。

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