生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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伊角は、約束を守る人だった。また明日、と言ったら、本当に来てくれる。
顧問の冴木も加え、今日の囲碁部は充実していた。
「しかし、もったいないな。これだけの力持ってて、何で国語教師なんだ」
和谷はヒヤリとする。冴木の言い様はもっともだったが、そこは触れてはいけないのだ。
「冴木せんせー、」
和谷が別の話に切り替えようと声をあげたが、
「祖父が、教師だったんですよ」
何でもない様に、伊角が笑って言った。
「あーそんな感じする」
「どんな感じだよ……」
無責任なヒカルの感覚に、和谷は思わずツッコミを入れる。正直言ってほっとした。
「本当だよ」
伊角が和谷だけに向かって頷いた。
この人の事をもっと知りたい。もっと。焦る気持ちになる。
「先生、……」
「さ、もう行くか」
冴木が伊角を促した。
「えー何、どっか行くの先生たち」
「私も行くーっ」
5月とは言え、外はもう暗い。めざとい女子部員の追求に、冴木が追い払う様に手を振る。
「オトナの付き合いだよ」
「いいなーっ」
「あと5年たったらお前らも仲間に入れてやる」
伊角の肩を抱いて、背中越しに冴木がわざとらしくウインクした。ひやああ、と悲鳴が上がる。
「……っ」
和谷はムカムカした。イケメンは何をしてもサマになる、という事にではない。
おとなしく連れられていく伊角に。
和谷の入っていけない所へ、容易に伊角をさらって行ける冴木へ。
伊角を取られたくない。湧き上がる感情は、仲の良い教師に対するものの基準を越えていた。
「……嘘だろ……」
伊角は男だ。年上で、教生で。
これまでの淡い恋の相手とは訳が違う。
「嘘だ……!」
否定できない想いを、和谷は言葉だけは否定させてくれと叫んだ。
部員が呆気に取られているのをよそに。
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