生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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「女のせんせーとくっちゃべってる時間はあっても?」
「別にそういう……とにかく、君が思ってる以上に教生は忙しいんだ。一日めは分からなかったから、囲碁部に顔を出してしまったけれど」
期待させる様な事をして悪かったと、伊角は詫びる戦術に出た。
「……一局だけでもダメ?」
「……」
ただ首を振る。
「……すごい残念なんだけど」
この上まだダダをこねたい気持ちで、和谷は言った。
「先生、すごい強かったし。指導碁してもらえたら」
「ごめんな」
「ねえ先生、どっか大会とか出てた?」
際どい質問に、伊角は鼓動を早くする。
「いや……」
「嘘だぁー、結構本格的にやってたんじゃないの?」
この生徒の、こんな風に押しの強い所が苦手だ。
「……昔だよ」
どうせあと10日程の付き合い。その後は二度と会わないだろう。
何でもない様に、伊角は告白した。
「プロを目指してた時期があって。昔」
和谷が息を飲むのが聞こえた。
「……すげえ……!!」
その羨望を、斬る様に伊角は言う。
「諦めたんだ。もう。世の中には努力でどうにかなる事とならない事がある。夢は夢でしかない」
未来ある高校生に、こんな話をして。
何がしたいのだろう、と伊角は内心笑った。やっぱり教師にも向いてない。
「……」
和谷の、ショックを受けた様な顔に痛みを感じつつ、伊角はきびすを返した。




部室代わりの化学室の、薬品棚のラベルを何となく読む。
「和ー谷! あんたの番!」
碁盤を挟んで向かい合う少女が、ご立腹だ。
「あー、悪い」
「いい加減にしてよ! さっきからぼーっとして!」
「……なあ奈瀬」
「何よ?」
今日の部活は3年生まで全員揃っていて、かなりうるさい。真剣にやっている一部の者も、検討が喧嘩になっている。
「……努力って、報われねーもんかな」
「は?」
「いや違った、何つうか、……わかんねー……」
「……何の話してんの和谷」
「えーと……余計な事無理矢理聞いちゃったかなあって時、もう触らないのが正しいかな?」
一手置きながら、和谷は聞いた。さっと謝れば済む問題だとは思うし、今まではそうしてきた。
だが、伊角というデリケートそうな大人に対してもそれで良いものか、初めて和谷は迷っていた。他の、伊角の言葉を咀嚼するのにも時間がかかっていて。
本当は対戦どころではない。
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