生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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相手は5つも年上の大人だ。高校生に言われたことなんて、気にする筈がない。
と、和谷は懸命に考えようとしていた。しかしながら、嫌な話は耳に入るもので。
「なんかさあ、泣いてたっぽいんだよねえ」
昼休み、隣のクラスの女子がわざわざやってきて、菓子を片手に井戸端会議。敏感になっている聴覚が、その人の名前に反応してしまった。
「えー、うちらいぢめてないよお別に」
「でも伊角せんせって被害もーそーぽくない?」
残酷に噂話を繰り広げる少女の輪に、和谷は割って入った。
「伊角先生泣いてたって……なに?」
「1時間目にね、後ろにいたんだけどー」
「目が赤くてさ、うさちゃんみたいな」
「な、何で?!」
動揺する和谷に、
「知らないよそんなのー」
女子生徒が合唱する。
「そろそろさあ、疲れが溜まってんじゃないの?」
「かもねー」
勝手な推論から別の話に飛ぶ。和谷はふらふらと机に戻った。
その赤い目の理由を、自分だけが知っている。
むしろ、その理由は恐らく自分だ。小学生の時にスカートをめくって好きな子を泣かせた時くらいの、ショックだった。
今回の相手は女の子でも好きな子でもなかったけれど。




携帯が鳴る。
「……進藤かよ」
和谷は無視して、再び雑誌に目を落とした。
部活などする気が起きない。放課後、和谷はコンビニで立ち読みしていた。
悪友たちにボーリングに誘われたが、遊びに行く気もしない。どっちつかずで、いらいらする。
突破口がない。どうすればいいのか分からない。あと10日もない日々をやり過ごして、それで良いだろうか。
「……っ、何だよ!」
再び鳴った着信に、和谷はしょうがなく出た。
『和谷あ? お前なにしてんだよ?』
「今日は休む。たいちょーふりょーって言っといて」
じゃあな、と一方的に切ろうとした指を、ヒカルが止める。
『和谷和谷、あのさあ、……』
「……あ?」
良く聞こえない。ラインの向こうは、相当盛り上がっていた。
『……すみせんせ来てるよ』
「は?」
有り得ない単語が聞こえた気がする。
『だからあ、伊角先生来てるんだってば』
「……はあ? 何言ってんのお前」
からかっているなら許せない。
『ほんとだってば。でも和谷休みなんだろ。残念だったなあ』
「……」
次の瞬間、和谷は雑誌を放り出していた。
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