生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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はっきり言って長距離は苦手な和谷が、息も絶えだえに化学室へ飛び込んだのはヒカルの電話から30分後だった。
「は、はあ……っ」
しかし、先ほどの騒ぎが嘘の様に、静かだ。部屋の中程に集まった部員の誰一人として振り向かない。
背伸びして人垣の向こうを見ると、時期部長候補のアキラと、伊角が対戦中だった。
「……」
本当だった。本当に、伊角は来ていた。
真剣なその表情に、和谷は唾を飲む。
「和谷、遅いぞ」
飯島が見咎め、小声で注意した。和谷は形だけ謝って、すぐ盤上に目を移す。
細かくて、どちらが上と判断がつかない。あえて言えば伊角だろうか、と思った所で、
「……ありません」
アキラが息を吐いた。
「えー!早えぇよ塔矢あっ 」
ヒカルが即、抗議する。
「まだやれるじゃん!」
「僕がこれ以上は無駄だと判断したんだ」
「まだ手はあるって!」
「もう必要ない」
「あきらめ早えーって!」
「諦めじゃない、冷静な判断だ!」
ぎゃんぎゃん口論する生徒を前に、伊角は困惑しつつ、
「……ええと……検討した方が?」
一応、先生らしくしようかと聞く。
「はい是非っ」
本田がきらきらと目を輝かせた。後輩のアキラに1度も勝てていないのだ。
「次、指導碁して先生っ」
奈瀬や他の女子部員も伊角の腕や肩に取り付く。
「……」
和谷ははっきり言って面白くない。伊角を最初にスカウト(?)したのは自分なのに。
と思えども、彼がここに来てくれた事は意外な喜びだった。反面、嫌な思いをさせたのに、と黒く心配が胸に残る。
これから教生指導があるからと言って、伊角は部員たちからやっと解放された。和谷の視線に、一瞬小さく手招きして部屋を出る。
「……っ!」
幻覚ではなかった。と思う。
和谷は急いで後を追った。
「……和谷、君」
西向きの廊下に、伊角は待っていた。
「……」
呼び出したものの、伊角は何と言えばいいのか分からない。ありがとう、と言うのも変だ。彼には意味が分からないだろう。
「せんせ、……怒ってない?」
「……え?」
「あのさ……俺のせいで泣いてたんでしょ……?」
自分が泣きそうな顔をして、生徒は言葉をしぼり出した。
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