生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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「な……っ、泣いてないよ……!」
プライドからつい、伊角は嘘を言う。
「だって、1時間目に見た奴が、」
「いやそれはっ、ええと……とにかく、君のせいじゃ、ない」
「本当に?」
疑念が晴れず、和谷は大人の嘘をじっと見た。
「……せいじゃない、けど……あの、……おかげではあって」
仔犬の様な瞳に耐えられず、伊角は白状した。和谷の言葉に救われたこと、それが涙の原因であること(疲れていたのもあるのでほんの少しだけと付け加えて)、気持ちが前向きになって囲碁部に顔を出してみたこと。
「……そしたら和谷君がいないから、どうしたのかと」
「っ、だって、先生泣かせちゃったと思って俺、……俺」
安堵で、今度は和谷が鼻をすする。
「……和谷君」
「せんせっ、わやくんってゆーのやめてよ。和谷でいいよ」
勝気な少年は、滲む涙を必死で飲み込んだ。
「……うん」
どうしようもなく微笑ましくて、伊角は思わず手を伸ばし、
「ありがとう」
癖のある和谷の頭を撫でた。





それからの日々は、あっという間に過ぎた。楽しい時ほど時間が過ぎるのが早いのは何故なのだろう。
「せんせーっ」
「うわっ」
背中から激突され、伊角は書類を取り落とした。
「和谷!」
「ごめんっ、ねえ先生今日部室来る?」
さっとコマネズミの様にそれを拾って、生徒は期待の目で伊角を見る。
「今日はダメだな」
答えたのは伊角ではなかった。和谷は担任を振り返る。
「えー」
「和谷、伊角先生は勉強しに来てるんだぞ」
「生徒とのふれあいも勉強のうちじゃないですかー」
むくれる和谷に、
「ごめんな、明日は多分大丈夫だから」
伊角が優しく言って頭を撫でた。
高校生に向かって失礼な、とも思うが、和谷は伊角に撫でられるのが嫌いではない。
何より、その時の伊角の微笑む顔が。
「じゃあな和谷、部活頑張れよ」
楊海が、伊角の肩を抱いて促した。伊角は和谷に小さく手を振って別れの挨拶とする。
「……ばいばい」
和谷も小さく返す。
何かがもやもやと、痛い。楊海と伊角の、親しげに会話している背中を見ると、嫉妬の様な気持ちが。
(……バカか俺、教生にやきもち焼いてどーするよ)
和谷は自分に呆れて、その感情を打ち消した。




**************
や、やっとここまで来た…(汗)
楊海先生に他意はありません。……多分。恐らく。きっと。
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