生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□先生とそのコイビト
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 つい最近やっと両想いになれた、恋人からのメールは短い。おまけに絵文字一つない。
 なんか怒ってるの?(;_;) と送ったら、ぽつんと
『怒ってない』
とだけ返る。
 実際、次の日は普通に微笑んでくれるが、それでも心臓に悪い。心配で寝付けなくなる。
「あー……なるほど」
 和谷は、その理由を初めて目の当たりにした。恋人のメールがあんな風な理由。
「両手打ち……」
 しかもキー操作を頻繁に間違えている模様。
「……先生?」
「………………え?」
 やや間を置いて、伊角が顔を上げた。集中しないとケータイのメールは打てないのだ。
「あ、ああごめん、もう少し待って」
「別にいいけどさあ……」
 相手はお父様らしい。教師は「ちょっと返信してもいいか」、とまで丁寧に尋ねてくれて、和谷には自分がないがしろにされている気は全然しない。けれど。
 もう貴重な昼休みが終わってしまいそうだ。
「俺が代わりに打ってあげようか?」
「いい」
 やっと送信して、伊角はため息とともに携帯を事務机に置いた。
「お前にやってもらったら、変なハートとか付くだろ」
「変なって何だよー。てゆーか先生、それでよくパソコン扱えるよね」
 彼が資料を作っている様子などは、本当にデキる男という感じでカッコイイのだけれど。
「……携帯電話は、電話だろう。電話の癖にやたら機能を付けるのが悪い」
 と言う伊角のケータイはキズ一つないものの、和谷には信じられない2年以上前の機種だ。
「ほんっと、先生って一部おじいちゃんみたい」
「うるさい」
 伊角のケータイが再び震える。父親からの短い返信を見、電源を切った。
「さあ、午後の授業は体育なんだろう。さっさと行けよ」
「えーまだいいって」
「良くない。ほら、遅れるぞ」
 教師は問答無用で生徒を国語教員室から追い出す。殆ど毎日そうだが、少しでも甘い顔を見せたら和谷はずっと入り浸ってしまう。
 伊角自身も、和谷がいる空間は心地良い。それでも恋人としての感情を優先することは、教師として決してできないのだ。
 そう、自分は教師で和谷は教え子の高校生だから。
 その事がもたらす影響を、伊角も考えていなかった訳ではない。考え(過ぎ)たからこそ、想いが通じ合うまでに1年も紆余曲折があったのだ。
「……こんな風で……いいのか、俺」
 ため息をついて伊角はチョークケースを取る。
 想いが通じ合っても相変わらず、心配はたくさんある。救いは和谷の屈託ない笑顔だけだった。





「なんっか最近和谷ってさあ、付き合い悪りぃよなあ」
「……そうかー?」
「てか昼休みもすぐどっか行っちゃうしー」
「んー……」
 和谷は上の空で白石を置いた。対戦相手は口を尖らせて抗議する。
「テキトーに打ってんじゃねーよ、もうっ」
「あ!」
 黒石が盤面に重くのしかかった。
「ちょ、待て進藤っ」
「待てナシ! 和谷のじごうじこくだろっ」
「……自業自得」
 二人の頭上から訂正の声が降ってきて、白石を打った。
「あああ! なにそれッ!」
 ヒカルが悲鳴を上げる。
「伊角先生っ」
 和谷は救いの主の腰に抱き付いた。
「っ、こら和谷……ッ」
 逃げ損ねた伊角は血の気が引く。他の部員達の視線を感じて。
 和谷は臆面もなく叫んだ。
「ありがとう先生ー! もう大っ大好き!」
「ずりぃよ、逆転しちゃったじゃん!」
 騒ぎに他の囲碁部員達が周りを囲む。地団駄を踏むヒカルの後ろには、仕立ての違う制服が立った。
「……へえ、これは。和谷には絶対思いつかない手ですね」
「なんだとお!」
「続きを進藤が打つのは惜しいな……」
「なっ、なんだよそれ塔矢あっ!」
 同級生2人の感情を逆撫でして、アキラは伊角を見た。
「でも珍しい気がするんですが。伊角先生が対戦に割り込むなんて」
「……いや、目に止まってつい……まあたまには」
 伊角は緊張に咳払いする。
「たまには副顧問らしい事をしようかと」
「それは大歓迎ですが、先生」
 部長の飯島が眼鏡のフチを指先で押し上げた。
「和谷がうざくないですか。かなり」
「…………」
 伊角は問答無用で、まだ張り付いていた和谷の頭をべしっと叩いた。
 それからしばらく、副顧問が和谷の手助けだけはしなかったのは言うまでもない。







**************

いつも先生って逃げてる場面しか思い浮かばない(笑)ので、今回は普通に微笑ましいラブを……と思っているのですが。がー……。

先生の伊角さんは仕事に必要ですからパソコン出来ます。
棋士の伊角さんは……どうなのか(^^;




 
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