生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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「何だーオトコかよ」と、誰ともなしに言うのが聞こえた。和谷はゲームで寝不足の頭を下げたまま、朝礼をやりすごす。
どうやら、我がクラスに来る教育実習生の紹介があったらしいが、男と聞いては頭を上げる価値もない。
「……この5名の先生が、2週間我が校に……」
小学校の頃から毎年経験してきた、通り過ぎるだけの付き合いが、今年も始まる。




朝礼後。
あくびをしながら、和谷は日直日誌を取りに職員室へ向かった。GW明けの学校は、適度に生温い空気がより一層眠気を誘う。
「……」
ふと見ると、職員室の入り口で、スーツ姿の男が奮闘していた。
「あのー……」
「はいっ」
「開くの、こっち……っすよ」
和谷が、逆側の取っ手で引き戸を開ける。
「っ、す、すみません!」
さえない色のネクタイをした、真っ黒い髪の若い男が謝る。背丈は和谷より20センチほど高い。
「……いや別にいいっす」
見覚えのないその男を、教材の営業か何かだと思った和谷は会釈して先に入った。
「しつれーしまっすー」
「し、失礼、します……」
引き戸を閉める男の手が震えているのを、和谷は目の端で見てしまう。
(……変な奴)
だが不審者だとしても、まあすぐに何とかなりそうだ。
「あのっ」
奧の、1年担任の机に行こうとした和谷を、営業(仮)が呼び止めた。
「ヤンハイ、先生……の机ってどこかな」
「……こっち、っす」
目的地が一緒とは運が悪い。
「あ、いいよ、どこの机か言ってもらえれば、」
「俺の担任なんで」
和谷は渋々白状する。
「え、そうなん、」
後をついてきていた男は、語尾を言わずに足元を何かに引っかけスッテンと転んだ。
派手な音に、職員室が一瞬静まり返る。
「……っ」
職員室の床が、ケーブルやコードや積み上げられた書類で歩くのに注意を要する事は、言うまでもない。
「……。……大丈夫すか」
「だ、大丈夫っ、平気……」
額を打って赤くした男は気丈に立ち上がり、真新しいスーツの埃を払った。
とてもこれで営業がデキるとは思えない。
「おい君、大丈夫か」
そこへ、和谷がほぼ毎日聞いている担任の声がした。
「だ、大丈夫ですっ」
営業(仮)が、その机の方へギクシャクと歩く。和谷も疲れつつ追った。
「せんせー、日直日誌」
「今日の日直は和谷か」
「吉本が休みなんで」
「ほれ。あ、この人、今日から来る教生の、伊角先生だ」
「……教生?」
会釈をする額の赤い男は、営業ではなかった。
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