ワヤスミ本家

□夏のミサイル
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如何に、ばれない様にするかが問題だった。
もし弟に知れたら、きっとものすごく気まずい。
でも、一度巡ってきた思いは簡単に消せはしない。やるしかなかった。こういう事は伊角にとってタイミングが大事なので。


「和谷…渡すものが、あるんだけど」
「えっ? まだプレゼント贈呈には早くねぇ?」
「いや、これは、プレゼントというか…気持ちの問題で」
二人は、和谷の誕生日を祝って、和谷言う所の『デート』をしていた。盆休み前最後の仕事を終えて、新宿で待ち合わせ。
祝・二十歳。初めての、居酒屋デートだ。
「本当はもっと早く渡すべきだったんだけど」
生ビール1杯で少し顔を赤くした伊角は、間接照明で魅力倍増。
「前フリがこわいよ伊角さん…」
言いつつ、和谷はドキドキしている。
「これ」
伊角が鞄から取り出し、和谷の手のひらに載せた。
「…んん? なにこれ。ボタンじゃん」
「…そう、です」
伊角は目を合わせない。
「弟の制服から頂いてきました」
伊角が丁寧に着たので、お下がりになった高校時代の制服。
同じボタンを付け替えた犯行は、弟にばれずに済んだ。
「…第二ボタン?」
「うん…」
和谷は呆気に取られる。
「何で今ごろ」
「……そう言うと思ったけど、けじめというか」
「けじめ」
中学の生活指導の口から聞いたぐらいしかない単語だ。
「…和谷に貰ったから、俺もあげないといけないとずっと思ってて」
あの頃の伊角には余裕がなくて、むしろ和谷のその気持ちが辛くて苦痛で。
伊角の第二ボタンは誰に渡される事もなく、その時を待っていた。
「…そうか…くれるんだ、第二ボタン」
伊角の少ない言葉から和谷は感じる。数年を越して和谷の手に来たボタンへの、伊角の思いを。
「っ、ありがとう伊角さんっ! てゆか…っ」
びっくりしすぎた。
このボタンがついた制服を着た伊角を思い出して、にやけてしまう。
和谷は勢いで、2杯めの巨峰チューハイを空にした。



⇒End。。。

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