ワヤスミ本家

□A Week
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最初は、ほんのちょっとの違和感だった。

「…伊角さん」
「え?」
「何か違くない? いつもと」
鍵を閉めて、眉根を寄せたスーツ姿の伊角は手櫛で髪をすいた。
「どっかおかしいか?」
「んー何か…」
コンクリ打ちの階段を降りて、朝日の中、駅へ向かう。自転車の高校生が、風の様に追い抜いて行った。
和谷は並んで歩く伊角をじっと見る。
「…もしかしてだけどさ」
「ん?」
鞄の定期を確認していた伊角が向くと、思わぬ近さに和谷の顔があった。
「っ、和谷っ」
「伊角さん、背ぇ縮んだ?」
「っ?!」
何をバカな、と伊角が切捨てる前に、
「だって俺、背伸びしなくてもキスできそうじゃん」
にかっと朝日より眩しい笑顔で和谷が言う。
「…お…俺が縮んだんじゃ、なくて…和谷が伸びたんだろ」
伊角は仕方なく、和谷の望み通りの言葉を絞り出してやった。
「やっぱりー? そう思うー?」
浮かれた和谷が肩をぶつける。
「…それにしても…急に伸びた様な気がするけどな」
並んで歩いたり、立ったままキスしたり、が最近なかった訳ではない。
けれど、気付かなかった。彼の成長に。
「いやあ、毎日牛乳飲んでんのが効いてきたんでしょやっぱ! ありがとう牛乳ありがとうー!」
「和谷、叫ぶな…」
小学生の様に喜ぶ和谷をたしなめて、伊角は腕時計を見る。
「おい、急ぐぞ」
「はーいっ! ね、今日はキスしやすくなった記念日って事でお祝いしよ!」
「給料日前だからダーメ」
「えー」
今朝、腕時計のベルトの穴がいつもより一つ奥に入った。
和谷と明るく会話しながら、伊角も少しの違和感を自分の身体に感じ始めていた。



。οО○ て訳で、予告していた小児伊角さんです。ふあんたじいな感じも捨てがたかったんですが、何かシリアスになりそな予感…。縮んだ〜だののあたりはヒカルとあかりちゃんの卒業式の会話ですな。
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