ワヤわんこ

□いぬのびょうき
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ワヤが風邪をひいた。
風呂上がりにすっ裸でいさせたのが悪かった。今度からは、いくら「暑い」と言っても聞かない事にしよう。
それはともかく、風邪はかなり心配だ。あまりに熱が高いので、俺は今日は学校を休んで看病している。
「イスミさん…おみずちょうだい」
ミミを伏せ、とろんとした目でベッドに横たわるワヤは、いつものいらない位の元気の影もない。
「ほら」
水を与え、できるだけ優しく額の冷たいタオルを替えてやる。昼飯にスープを出したら完食したので、少し安心はしたものの、病院に行くのを断固拒否するので困った。
ワヤはお医者様に、あまり良い思い出がないらしい。
「手えにぎって?」
「……」
羽布団の端から差し出される幼い手を、俺は渋々取った。午前中からずっとこうなのだ。
「えへ…イスミさんがずっといっしょなのうれしい」
けれど、赤い顔でふにゃっと笑われると、思わずその熱い手を両手でぎゅっとしてしまう。
「かぜひくとトクするね」
「バカ言うな」
「オレねつが出たら、イスミさん学校休むんだ?」
「…心配だしな。しょうがないだろう」
学校には自分が風邪だという事にして電話した。楊海先生に嘘をつくのは気が咎めたけれど。
「かんびょう、ありがとうイスミさん」
「……いいよ」
「ごめんね」
拾った時から親しい(慣々しいとも言う)態度のわんこだったワヤは、たまにこんな風に他人行儀な事も言う。
その他人行儀な感謝の言葉が、なんとなく、……なんとなく、彼が野良わんこに戻ってしまう可能性を感じさせて、
「……もう休め」
俺は何も言えなくなってしまう。
できれば、眠るワヤの手を握り世話をやくこの時間が、ずっと続いて欲しいなんて。
ダメだろうそんな……。



それからしばらくして、ワヤがまた熱を出したという事で、俺は再び学校を休もうと、した。
体温計が50℃を指すのを見るまでは。(ワヤときたら、体温計を湯たんぽにあてて熱を出した風に偽装しようとしたのだ。全く!)


end。。。

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