ワヤわんこ

□4がつ18にち
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「たんじょうびってナニ?」
 朝のパンをたべながら聞いたら、イスミさんのうごきがピタッと止まった。ぎゅーにゅーがコップからあふれそうになる手前で、
「っは!」
やっとビンをもどす。
「なにしてんのイスミさんてば」
「あ、ああ……」
「ねえっ、たんじょうびってなにー?」
「……生まれた日の事だよ」
 イスミさんは何でかカレンダーを見た。明るいお日さまで、白い紙がはんしゃしてあんま見えない。
「生まれた日? ふーん。なんでおめでとうなの?」
「……。それは、生まれた日だから、かなあ。誰かに言われたのか」
「紙がはいってた」
 オレはポストから取ってきたままわすれてた紙きれをテーブルの上に出した。花の絵の下に、えーと……たんじょ、う、びおめで、とう、てかいてある。あとはむずかしくてよくわかんない。
「……お父さんだ。バースデーカード」
 イスミさんは手に取って、目をほそめた。
「イスミさんおめでとうなの?」
「ああ、確か今日」
「生まれた日?」
「うん」
「ニンゲンは生まれた日はおめでとう?」
「そうだな。人間だけじゃなくてワンコもお祝いしていいと思うけど」
「されたコトないよ、おいわい。てゆーかオレの生まれた日っていつ?」
 イスミさんのかおが困った。
「……」
 あ、ごめん。
「いーよ、オレ、ノラわんこだったからイスミさんもいろいろわかんないよね、うん」
「……ワヤの誕生日か……考えた事なかったな」
「えーでも今日はイスミさんの、たんじょび、なんでしょ? ねえ」
 オレのはなしを聞かないで、イスミさんはふらふらっと向こうのへやに行った。
 イスミさんがもどってくるまでに、オレはぎゅーにゅーをぜんぶのんじゃった。
「……よし、ワヤ。お前の誕生日は8月12日だ」
「えー?!」
 いきなりナニそれ?
「……嫌か」
「ちがうけど、なんでその日なの?」
「日記で……ワヤを拾った日が8月12日だったから」
 オレの口のまわりをふきながら、イスミさんは言った。
「他の日がいいか?」
「オレも、たんじょび?」
「うん……8月になったらな」
 すごい!
「おめでとう、あるの?!」
「あるよ」
 イスミさんは笑った。
「やったー!! あっ、でも今日はイスミさんのおめでとうなんだった!」
 たんじょび、おめでとう!!!!
 っておっきな声でほえたら、イスミさんは思わず耳をふさいで、また笑った。
「……っ、いいな、やっぱり」
「なにが?」
 アタマをぐしゃぐしゃにされる。
「ワヤがいて良かったよ。誕生日って感じがした」
 ありがとう。って、イスミさんは言った。
 おおー。オレも8月になったら言おうっと!
 「イスミさん、ありがと」。




⇒End。。。

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