生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□先生といっしょ☆
2ページ/15ページ

■ □ ■ □


前夜は、そわそわして眠れなかった。部活の遠征や合宿のないヒカルにとって、友人たちと数日を共にするだけでも新鮮な体験である。
「…気持ち悪くなってきた、オレ」
「大丈夫かよ進藤」
「寝不足でヒコーキ乗ってバス乗るのキツイ…」
担当のバスガイド嬢がお世辞にも若くないのに、がっかりしている場合ではない。
「寝てろよ」
「うん…」
フェンスの向こうの、福岡空港の滑走路は雨に濡れている。和谷は後ろのバスが見えないかと頭を巡らせた。
「…あーあ」
何とか、あのバスに潜り込もうとしたのだが。
隣のバスに乗ろうとしているのを目ざとい女子生徒達に騒がれ、和谷は森下に軽くゲンコツをくらってしまった。忙しい伊角が現場を見ていなかったのが救いである。
「和谷、ポッキー食う?」
「え?」
前を向くといつの間にか菓子が回ってきていた。
「あ、サンキュ。進藤は?」
隣のヒカルは青い顔で首を振った。では、と和谷は不調の友人の分もごっそり取って次に回す。
「マジ大丈夫か」
先程と同じ心配を口にして、和谷がペットボトルのお茶をヒカルに渡した。
「…分かんない」
ヒカルは口を湿らす程度を飲んで、和谷に返す。
冷たいものが喉を通る一瞬だけ、頭痛が治まった。
「気分悪くてアタマ痛くて眠いのに眠れねー。もー…」
「森下先生に薬か何かもらおうか?」
車酔いだけでも治せないかと和谷が提案する。
「う〜」
言葉にできずヒカルは和谷の方に寄りかかった。
「オレ、窓の方に座ったら気分マシになる気がするー」
「お前な…」
じゃんけんで勝って窓際をゲットした和谷だったが、病人(?)にそう言われて退かない訳にはいかない。
「しょーがねぇな…もう」
「さんきゅ和谷〜」
バイパスの渋滞で、車内はお喋りと菓子の匂いに満ちている。
「あのさ、和谷さー…」
窓に気だるく頭をつけたヒカルが、言いさしてやめた。
「何だよ?」
「…うー…」
回ってくる菓子をやっつけながら、和谷はキオスクで買ったマンガ雑誌を広げる。
「あのさあ…たとえばさ…」
「うん」
「たとえばだぜ?」
「しつこいな。何だよ」
「たとえば…」
ヒカルは目を閉じて、
「…塔矢がさ。好きだって言ったらどうする」
爆弾を投げた。
「…はあ?!」
耳半分で聞いていた和谷は、思わず雑誌を取り落とす。
「何だって?!」
「あ、やっぱ何でもない…」
友の反応にヒカルは後悔した。
しかし一度出た言葉は取り戻せない。
「ちょい待てよ、何だってっ?」
驚愕のあまり和谷は耳をほじって小声で聞き返す。
「塔矢が…?」
「えーと…何かさ。和谷は気持ち悪いって思うかもしんないけど」
頭痛の最中に説明するのは面倒だが、弁明しなければならない。ヒカルはできるだけ和谷を見ない様にして言った。
「アイツ意外といい奴なんだよ」
「すきって…ライクじゃなくてラブ?」
「…そうみたい」
和谷にとっては天地がひっくり返った感覚である。同じ部で活動しているものの、アキラとはお互い気に食わない仲なのだ。
どう返せばいいのか分からず、和谷はそれを正直に言った。
「ていうか何て言やいいんだ…ていうか何も言えないんすけど。ていうか…」
接続詞の繰り返しが和谷の混乱を物語っている。
「いいよ、無理しなくて」
ヒカルは手を額にあてた。バスの窓は雨に濡れて冷たく気持ちいいが、揺れがダイレクトにくるので頭をぶつけたのだ。
「ただ、…ちょっと、言っといた方がいいかなって思ったんだ。ごめん」
そう言ったきり、ヒカルは本格的に瞳を閉じた。
「和谷何か固まってる」
「バス酔い? ねえバス酔い?」
「伝言今どこだー?」
ゲームは和谷とヒカルの所で滞り、昼食前に生徒達の腹は菓子で満たされてきた。
それでも修学旅行は進む。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ