生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□2週間の先生
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「あぁー……どうも」
朝礼で顔も見ていないのがバレない様に、和谷は話を合わせる。
高校生になって、こういう小ズルイ事もできる自分になったのを、成長というのか汚い大人に近づいている証拠かと、悩む事もある。
「緊張してるなあ、リラックスリラックス!」
楊海がバシバシと教生の背中を叩いた。
「は、大丈夫、です。すみません……」
さっきから、同じ言葉しかこの教生の口から聞いていない。
和谷は完全にナメてかかった。先生の見習いといっても、ただの学生だ。
果たして2週間もつのだろうか。一方で心配になった。



後に、この初めての出会いの事を和谷は伊角に話したが、伊角……かつての教生は全く覚えていなかった。相当に緊張していたらしい。




「……」
どうにも道がない。
まさかまさか、これほどとは思わなかった。
「……和谷あ、投了した方がいいんじゃね?」
つっつく進藤ヒカルに、
「うるせっ、黙ってろ!」
和谷はいらいらと唸る。
対戦相手は、ナメていた教生、伊角だ。
「……ええと、もうそろそろ、……残ってる仕事もあるから」
負けてやらなかったのは大人げなかったかも知れないと、伊角は雰囲気を悪化させない術を探す。

「囲碁が趣味って、さーくるとか入ってんの、先生?」
クラスでの自己紹介で、地味な趣味を列挙した教生に声をかけたのは和谷だった。
「サークルは入ってないよ。家で打ってる程度」
「へー。俺、囲碁部なんだけどさ、腕試ししない?」
ニヤリと笑って部室に引っ張って連れてきたはいいものの、結果はこのザマだ。

「うぅー……マケマシタ……」
「遅いって和谷」
外野からツッコミが入る。
「えー、てゆーか先生、家で打ってる程度でこんな?! 悪いけど俺、都大会でイイとこまで行ったんだぜ?!」
「いやー……」
伊角が言葉を濁した。
「和谷はこの手が悪かったな」
「あー、そうなの?」
部長の飯島を始め、周りの部員達が勝手に検討を始める。
「じゃ、じゃあ、どうもお邪魔しました」
伊角が慌てて席を立つ。
「先生っ、また来てよ!」
本心から、和谷は叫ぶ。
入り口で教生は困った様に首を傾げて、
「……時間があれば、また」
笑って引き戸を閉めた。
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