生徒和谷×先生伊角さんパラレル

□さよなら☆卒業先生
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「だから、個人的な印象だと断った」
 アキラは忌々しげに和谷の手を合気道技でかわした。無理な方向に捻られた腕に、
「ってぇ!」
和谷は叫んでとびすさる。
「そんな風に、恋人の先生を不安にさせているのはキミ自身だ。僕にヤツアタリしている暇があったら、」
「ええええーっ?!」
 スッとんきょうな声が身近で上がり、和谷とアキラはもう一人の同級生を振り向いた。手を口元にあてた彼は、
「……わ、和谷と伊角さんって……!」
卒業間近になって初めて(ようやく)知った事実に大ショックを受けていた。
「こ、恋人ー?!」
「進藤……キミは何を今ごろ」
「……」
 改めて言われると気恥ずかしいもので、和谷は柄にもなく友人の目を見られない。
「ま、マジで?」
 そこへ、第四の男が息せき切って現れた。
「……っ」
 扉を開いて、アキラとヒカルの存在に狼狽する。噂の国語教師だった。
「あっ伊角せんせっ、あのさ、マジなの?!」
 和谷が止める間もなく、ヒカルが国語教師に詰め寄る。
「進藤ッ」
「オレちょーびっくりなんだけど! 先生、和谷なんかと付き合ってんの?!」
「なんか、って何だよ! じゃなくってっ、あの、先生、コイツ今ちょっとおかしいから!」
 ヒカルの口を塞ぐ和谷の必死のフォローも虚しく、伊角の瞳孔は開いている。微かに、絶望の声が漏れた。
「……お前が話したのか、和谷」
「違うっ、てゆーか塔矢がっ」
 和谷が指差すのに、
「僕のせいか。むしろ今まで進藤が分かっていなかったのが奇跡だろう」
アキラはあくまでも冷静に和谷を鼻で笑った。
「安心して下さい先生。僕にはこの事実を公表して得るメリットは何もない。先生を脅迫するのも同様にです」
「きょうはく、って脅すってこと? うわ、塔矢っておっそろしーこと考えるよなあ……コワっ」
 ヒカルが和谷に胸ぐらを掴まれたまま、呑気に言う。
「……つーか、塔矢より進藤の方がキケンでおっそろしーんじゃ……」
 和谷は、手にした失言大王・情報流出ウィニー並みな友人を、いっそどこかに沈めた方がいいかと一瞬本気で考えた。
 そんな生徒たちの会話も耳に入っているのかいないのか、
「……和谷、後でまた連絡する」
伊角が意を決した表情で出ていこうとする。和谷は懸命にすがりつき、投げ出されたヒカルをアキラが受け止めた。
「っ先生! 待ってよっ」
「ここでは話ができない。少し考えたいんだ」
「渡すものがあるって言っただろ!」
 和谷の埃っぽい顔が、心の苦痛に歪む。伊角の硬い瞳が揺らいだ。
「もういいよ、この二人にはバレバレなんだし、……そうだ、いっそこいつらが証人って事で」
「……何のだ」
 アキラが反応した。和谷が舌打ちする。
「お前が証人ってのがちょっとアレな感じだけどな」
「邪魔なら出ていくが?」
 尊大な態度でアキラはヒカルを引っ張って行こうとした。
「塔矢っ、オレなってやりたい、なんだか知らないけど証人って」
「……」
 ヒカルの、少しの和谷への友情と多大な興味津々さの前に、アキラは敗れる。
「じゃあコレ。受け取って下さい、先生」
 和谷が差し出したのは小さなベルベットの箱だった。伊角が手を出さないので、和谷は強引に押し付ける。
「いや、前にも先生いらないってゆってたし、俺もあんまり考えてなかったんだけど、こういうのがないとやっぱり何か離れちゃうのかな、じゃあ証になるもの?ってゆーか、てゆーか……先生って義理がたいから、こんなのででも繋ぎ止めたいなって」
 バカでごめん、と和谷はうつ向いた。
「……どうしたんだ、こんな」
 開いた箱に指輪があるのを確認して、一瞬で伊角は箱を閉める。
 とても、見られない。
「ガッコ休んで、日払いバイトしてた」
 爪に泥のついた原因を、和谷は白状した。
「今あげないと、ダメになっちゃうと思って」
「っ、バカ!」
「だからバカでごめんって言ったじゃん……」
 予想していた伊角の反応だったが、和谷はしゅんとする。
「先生が色々俺の考えられないとこまで考えて、二人分不安になってるから、……元気出して欲しかったし」
「……俺は女の子じゃない」
 貴金属で喜んだりしない。
「知ってるよ。……でも、先生の、責任、みたいなもの減らしたかったんだ」
「……」
「俺から好きになって、俺が迫ったんだよ、恋人になってって。その証拠なんだ、これ」
「……こんな、もの」
 伊角の声が震えた。
「こんな、ものより、……っ」
「和谷っ」
 証人が手を挙げた。
「指にハメちゃえよ! さっさと!」
「……進藤」
 何故か大興奮している友人を、和谷は振り返った。
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