ワヤスミ本家

□Sunnyday
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「仕事は…ないけど」
同門の先輩と打つ約束があると言うかどうか、迷った。
「なんか用事あるんだ?」
勘が良い和谷は、相変わらず伊角のジーンズを掴んでいる。後ろめたい様な変な気持ちがして、
「…分かった、泊まらせて貰う」
しばしの沈黙を破り、伊角が折れた。
「いい、かっ?」
了承を得ようという言葉は、途中でうわずる。和谷が伊角にタックルを仕掛けたのだ。
「和谷っ!」
「く〜〜っ!! やった嬉しっ!!」
「…だったらもっと丁寧に扱えっ!」
腰をしたたか打って、伊角は抗議する。
「ごめんっ、でももう嬉しくてさっ」
和谷もうわずった声で、上半身を起こした伊角にしがみつく。まるで、離すと飛んで行ってしまうと思っているかの様だ。
「…ああ。大丈夫」
伊角は思わず力を抜いた。自由になる手で和谷の頭を抱き寄せると、ぱたぱたするしっぽが落ち着いた。
「どこにも行かない」
伊角は思う。さっき抱き合ったのは、ただただ本当に二人は二人なのだと確認するためだった。
「俺もっ、伊角さんの傍にいる…っ」
ならば、この抱擁は何だろうか。願いと誓いのためか。
車のライトが部屋をゆっくり走って消えていった。
「…和谷、布団敷こう」
「は?」
伊角を見上げる瞳は丸い。
「だから、布団」
和谷を引き剥がして立ち上がり、伊角は黙々と寝具を準備し始めた。
「…明日…じゃない、今日、…雪降るかも」
「何を言ってるんだ」
「伊角さんが積極的だ…!」
和谷が呆然と座りこんだままなので、
「…オヤスミ」
伊角は意地悪く一人で毛布に潜ってしまう。
「ちょ、待って伊角さんっ」
慌ててネクタイだけほどき、和谷も後を追った。向こうを向いている伊角の上に被さる。
「寝ないでよ」
布団の中は暗く、目が慣れない。ふいに伊角の長い腕が伸びて、
「…あったかい…」
和谷の首に巻き付いた。
「湯たんぽ代わり? 俺」
伊角の肩口に頭を埋め、和谷はぼやく。
「すごくあったかい、和谷」
太陽みたいだ。小さく笑って、伊角はクセのある和谷の髪を撫でた。
「…ヤバい…」
和谷がもぞもぞと腰を引く。
「ええと…あのですね、禁断症状なんですが」
「ん?」
「伊角さんの匂いで」
欲情してしまったと、和谷は訴えた。
「…まだ何もしてないだろう」
「してなくても、膨らんじゃうんだって」
身も蓋もない。
「若者め」
構わず、伊角は温もりを抱く。長かった友人時代の所為か、困った事に、伊角は恋人と単に同衾しても中々色っぽい気分にならない。
「も、伊角さんのせいじゃん、責任とってよっ」
スイッチの入った和谷は、くぐもった声で伊角の首筋を吸う。
「こら、和谷…っ」
跡がつくのを思い、伊角は身をよじった。押し返した肩は、見た目よりしっかりしているのだと改めて知る。
「伊角さん…」
耳たぶを甘噛みされると、流石に伊角も趣が乗ってきた。
「ん、…っ」
シャツの裾から和谷の手が忍び込む。後は崩れていくだけだ。
とは言っても深夜、しかも壁の薄いアパートでは、伊角が声を堪えきるのも無理はない。
「…っは、」
濡れる呼吸音だけを聞いて恋人の快い所を探すのは、これはこれで楽しみがある。
「ぅ、和谷ぁ…っ」
指先で胸の飾りをいじると、伊角の息が上がった。邪魔になってシャツのボタンを上からはずし、現れた肌から舌を這わせる。
「は、…っんん、」
狩られる心地に、伊角は震えた。こんな事はあってならないと思うから、余計感じてしまうのかも知れない。
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