ワヤスミ本家

□私生活(松の内)
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「言い訳ってゆーか言い訳じゃなくてっ、本当の事なんだってば!」
後ろ暗い所は何もないので、和谷にはその言葉は聞き捨てならない。石油ストーブの上でヤカンが小さく水蒸気を吹き出し、体が熱くなった。
「伊角さん!」
「…」
和谷が必死に言えば言うほど声を上げない笑いが加速して、ついに伊角は腹を抱えて冷たいフローリングに転がる。
「…何がおかしいんだよ。そんなに…」
「っ、ごめ、和谷、だっ…って、」
憮然として正座したままの和谷を置いて、伊角は呼吸困難に陥っていた。
この年上の恋人のツボが、たまに全く理解出来ない。
「ね、んがじょ…ぐらいで、イタタ…」
「〜っ…」
さっきは玄関にチェーンまでかけていた癖に、今は無防備に和谷のスウェットを着て床に丸まって悶えている伊角に、和谷は怒りも出来ない。この落差が、最近一層愛しくなっている。
「…けほっ、年賀状ぐらい、そんな」
和谷の沈黙に、やっと戻ってきた伊角が息を切らして起き上がろうとした。
「いい、よ…許すって」
爆笑にうるんだ瞳を拭って、まだ笑みが湧く。
「あーもう…参ったー」
「…参ったのはこっちじゃん…」
「ごめんごめん、」
和谷はコートと背広を脱ぎ、カバンの上に適当に投げた。
「こら和谷っ、すぐ掛けろよ…」
反射的に立ち上がろうとする伊角の腕を引き、床に押し倒す。
「っ!」
今度は逃げられない。
互角になってきた和谷の力が、本気の瞳が教えた。
「…今年の伊角さんとの打ち初めしてからって、思ったけど」
「ウソつけ…碁より先にお前、…ん…」
床に押し付けられ首筋を吸われ、伊角の身が痺れる。
「笑った、ばつだもん」
「だ…って」
捲られたスウェットの下のみぞおちには、1週間前の痕跡が目立たない程度に残っていた。
「あんまり、お前が」
蛍光灯の明るさを仰いで、伊角が裾を下ろそうと焦って引っ張る。
「真剣で…かわいいから、」
「かわいいのは伊角さんっ」
構わずたくし上げると、赤の裏起毛が肌目細かさに映える。和谷は石鹸の匂いのする乳首に舌を這わせた。
「…っ」
くすぐったがりやの伊角の力が弛み、簡単に反応した乳首の色が和谷を一層煽る。口と指で、しこった両方を存分にいじった。
「ぁ…ア、和谷、やめ…」
次の日、シャツに擦れて痛いのを伊角は嫌がっている。しかし和谷にとっては、次の日にも自分と行為を恋人に刻んでおける、ゾクゾクするおまけがついている事になる。
「伊角さん…」
ネクタイを楽にして、和谷は平たい胸を愛撫し、ビロードの舌触りの濡れた突起を甘く噛んだ。
「ひっ…ぁあ…っ」
和谷の肩を押し返す伊角の力は、殆ど入っていない。スウェットを捲り上げられた格好は、年上の恋人を幼く見せる。
「も、それ…やめ、って、頼むから…ぁっ…あぅっ」
赤子の様に乳首をしつこくねぶる和谷に、伊角が音を上げた。ネクタイの下垂れが臍の辺りをくすぐるのも耐え切れなかった。
「伊角さん、はーい」
平気な顔をして、和谷は恋人のスウェットパンツをトランクスごと脱がせた。
「和谷、でん、き…んう、電気…けして」
自らのズボンの前を開けながら音をたててキスをしてくる和谷のスキをついて、伊角は懇願する。
「だめ。もう待てない」
にべもなく、和谷は伊角の腰の下に素早く座布団を敷いた。伊角が恥ずかしさに脱走しない様に、男の弱点を握る。
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