ワヤスミ本家

□チョコレイトデイ
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肩を並べて湯船にゆっくりつかるのは久しぶりだ。
ここに二人で暮らす様になって、一緒に風呂に入った事は数知れない。だが大抵、ゆっくりつかる事もなく行為に及んでしまって――と考えた所で伊角はボッと顔が赤くなるのを感じた。
ここでされた数々の不埒な事を、ありありと思い出してしまった。
「……伊角さん? きーてる?」
「え? あ……」
向かいあった和谷が不審げに見ている。
「……なんだっけ」
「もー、いーよ」
すねる年下の恋人に伊角は慌てて、
「ごめん和谷、聞くからちゃんと」
膝を寄せて謝った。
「……」
顔を背けた和谷が、ちらっと伊角を見る。生意気な顔だなあと、伊角は内心笑いを堪えた。
「別に大した話じゃないけどさっ」
「うん」
「俺もチョコ用意してるよって言ったの」
「ふうん。……え?」
「伊角さんはくれるかどうかわかんないしさー」
もう慣れたけど、と和谷はあっさり言う。
「しょうがないからもう毎年俺からあげようかなって」
「そ、外で買ったのか」
「リボンつけて貰ったよ」
「リボン?!」
「最近は珍しくないらしーよ。売り場のお姉さんが言ってた。おっさんが自分用に買っていったりするんだって、たっっかいチョコ」
「……」
バレンタインチョコレート売り場の店員とそんな話までできる和谷を、伊角は尊敬した。
と同時に、付き合っているのが男の自分でなければ、和谷はそんな苦労(?)をせずに済んだのに、とも思う。和谷が不憫で、ひたすら申し訳ない気持ちで、
「……ごめんな……」
伊角は腕を伸ばして和谷の肩に触れた。
「何、何で謝んの?」
和谷はきょとんとしている。
「いや、……気をつかわせて、というか……」
お前が不憫だとは正面きって言えない。憤慨されるに決まっている。
「別に気ぃなんてつかってないよ」
「俺はもう、気持ちだけで十分だから……」
「せっかくだから気分出したいじゃん」
そう、和谷はこの手のイベントが好きで、重要視する傾向がある。
伊角は、板チョコを放り投げた自分と足して2で割るべきだと思った。
「伊角さん、何悩んでんの」
和谷が顔を近付ける。
「……悩んではいないけど」
和谷の相手が自分じゃなかったら、とは思う。
伊角の惑う瞳を、和谷はじっと見た。またこの人は何かどうでも良さげな事を引き出して、ぐるぐる考えてる感じがする……。
「……伊角さん、しよ」
「え?」
「えっち」
立て膝になって、和谷は伊角の方へ乗り出した。
「っ」
膝を抱えたままの恋人を、抱きしめる。ボディソープが香った。
「和谷、……ん」
何も言わせない。顎を捉えて、和谷は口唇を塞いだ。固まっていた膝がほどける。
「……伊角さん」
キスをしながら奥に追い詰めると、湯が揺れて和谷の腕を掴んだ。
「……は」
唾液が絡むくちゅりという音が浴室に響く。荒い息も反響する。
「……こ、ここで……?」
口唇を離された一瞬に、伊角は訊いた。
「ん、ここで」
「わ、わや……っ」
耳を甘噛みされた伊角の声が上擦る。和谷はその膝頭を難無く開いた。間に体を割り込ませれば、もう脚を閉じる事はできない。
「……すぐ、欲しいから」
何も余計な事考えられない様にしてあげる。
背に回した手と逆の手で、すぼまりに触れた。
「……っ」
ゆっくり指先でなぞって、それから。
「ん……」
何かを耐える様な伊角の表情に、和谷は内心焦れる。乱暴に犯ってしまいたい衝動。
「……っ」
湯の中で力を入れた指先が、つぷんと飲み込まれた。身体がカタカタと震えて、
「和谷……」
吐息と一緒に名前を呼ぶ。じんわりと、やや焦りが治まる。
「大丈夫……?」
伊角はこくこくと頷いた。伏せられた睫毛の下、頬は上気している。
温かな湯は妨げで、潤滑剤にはならない。指を先に進めると、
「ん……っ」
苦しげな声が漏れる。優しく優しく、と思うけれど、乾く喉が、高ぶる気持ちが捌け口を探す。
「ごめん、伊角さん……」
「あぅ……っ」
くるっと回した指で、押し宛てた。
「ここ?」
「……っ」
縮こまっていた恋人の手が、和谷の肩を力を入れて掴む。入浴剤の色に揺らぐ下、その男性器も立ち上がっているのが見えた。
「ぁ……う」
色のついた声が反響するのを嫌って、伊角はいつも以上に押し殺す。換気扇から、外に物音が聞こえていないだろうか。
そんな心配は、和谷の中指だけで頭から消え去る。
「……ひぁっ……」
「少し、濡れてきた……」
ナカが。
低い声にきゅっと締め付けて感じ、伊角は年下の恋人にすがりついた。
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