頂き物、捧げ物

□正月フリー小説
3ページ/4ページ

走る、走る


走る。走る。普段走る時も、それなりに全力。だけど、今は気ばかりが急いた。
もっと速く、速く。思いが一人走り。

「くそ…またかよ」

目の前で赤に変わった信号に、風丸は悪態を吐いた。新年、初詣に向かう車と人で、目的の場所になかなか辿り着けない。
かなり時間に余裕を持って出た筈なのに、腕時計を確認すれば待ち合わせ時間はとうに過ぎ去っていた。
ケータイを確認する。メールも着信もないのは、電波障害でも起きているのだろうか、それとも…。
信号が青に変わった瞬間、人の波をすり抜け、風丸は再び全力で駆け出した。
誰かに肩がぶつかったが、構わずに二段飛ばしで神社の石段を上がる。お参りに来ていた同級生に声をかけられた気がしたが、無視した。
普段なら丁寧に新年の挨拶を交わすところ。なのに、こんなにも余裕がないのは、あいつのせいだ。
登りきったところで、再びケータイを確認した。メールも着信も、なし。

「何で、まさか…」

嫌な想像が、頭を過ぎった。まさか、待ちくたびれて帰ってしまったのか。まさか、途中で事故にでもあったのか。
考えながらも、足は止めない。約束の場所へ、走り続ける。

神社の裏手、風丸に手を振る人物が居た。

「土門…」
「よ、明けましておめでとう。新年早々なんかお疲れみたいだな」

肩で息をする風丸に、土門はヘラリと笑いかける。あまりのいつも通りの態度に、風丸はこんなに急いだのが馬鹿馬鹿しくなった。

「初詣、誘った方が遅れたなんて格好付かないからな…」
「ははっ、紳士だな〜」

笑いながら、土門は風丸の隣に並んで歩く。軽く触れた手は、かなり冷たかった。

「メールなり電話なり、してくれば良かったろ。そしたら、こんな寒いとこでずっと待ってることなかったのに…」

土門を責めるのがお門違いなのは、自分でも分かっている。けれど、飄々とした態度が癪に障って思わず刺々しい言葉が出た。
土門は、フゥと息を吐き足を止める。何を考えているのか分からない目は、真っ直ぐに風丸に向いていた。

「待ってるって約束したからな。風丸との約束だけは、守りたいんだ。だから、きっとずっと来なくても、風丸を信じて待ってたよ、オレは」
「…馬鹿め」
「あー、馬鹿だな」

とりあえず、土門の手を、暖めてやらなければならない。
走ったのは、無駄じゃなかった。

END
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ