頂き物、捧げ物
□30000hit企画
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どうしようもなく
軽く手同士が触れ合った。絡む指を不自然にならないようにかわし、相手に合わせていた歩調を加速する。
「染岡、そーめーおーかー!!歩くの速い、リーチの差ぁ考えろ!!」
叫ぶ円堂の声に気付かないフリをして、染岡は歩き続けた。小走りの足音がさっきからずっと、ちょっと並んでは遅れて、その繰り返し。
「染ぉ…ぶふっ!?」
五秒に一回のペースで自分の名を連呼する円堂に、染岡は溜め息を吐くと足を止めた。背中に衝撃があったのは、止まり損ねた円堂が思いきり追突したせいに違いない。
振り返った染岡の不機嫌な顔を見上げて、円堂は無邪気に笑った。
「やっと聞こえたな」
「わざと無視してたんだよ!!」
少しは察するかとも思ったが、円堂にセケンテイを気にしろと言うのが無理な話なのだろう。染岡は極力小さな声で円堂にまくし立てた。
「少しは人目を気にしろ、商店街だぞ、知ってる奴に見られたらどうすんだ!!」
「してるだろ」
しかし円堂は平然と答える。それはもう、憎らしいくらいに。
「抱きつきたいのとかキスしたいのとか我慢してる分、せめて手繋ぎたかったんだ」
「そ、そうなのかよ…」
拳を握り締め熱弁する円堂に思わず流されそうになった染岡だが、思い直して首を横に振る。
「そうじゃねぇだろ!!そもそも全部人前ですることじゃねぇよ!!」
「そうかな…割と見かけるけど」
そう言って円堂が横を見るものだから、染岡もつられてそちらに目を向けた。と…
「スキあり!!」
頬に柔らかい感触。慌てて確認すれば、円堂の顔がすぐ近くにあった。
「え…んどう…テメェ!!」
「大丈夫、誰も見てなかったよ」
「そういう問題じゃ…」
一気に顔に血が集まり、上手く言葉が出てこない。金魚みたいに口をパクパクしている染岡の手を掴むと、円堂は走り出した。
「何か元気出てきた!!染岡、河川敷で特訓して帰ろう!!」
「あーあーあーもう、分かったよ!!やりゃいいんだろ、やりゃ!!」
並んで走りながら、染岡は円堂の横顔を伺う。屈託ない笑顔、それだけで何も言えなくなる。
「本当に、何で惚れちまったんだか…」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもねぇよ!!」
認めるのは悔しいけれど、この恥ずかしい馬鹿が、どうしようもなく好きなのだ。
END