頂き物、捧げ物

□バレンタインフリー小説
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どぼん!!


中学生のお小遣いなんてたかが知れてる。結果、赤い箱の板チョコが一枚、染岡の前にポツンと存在した。

「…無理だろ」

裏面に印刷されたレシピ。たった一枚ぽっちじゃ作れない高度なスイーツは、何度見ても染岡を絶望させた。
盛大な溜め息を吐きながら思う。やはり手作りなんて大それたことを考えるべきじゃなかった、少し高くとも既製品を買った方が絶対かしこい、と。
板チョコと睨めっこしている間も、時間は刻々と過ぎていく。小一時間そうしていて、ついに染岡はキレた。

「あぁもうヤメだ、必要ねぇだろチョコなんて!!」

ガリガリと頭をかきむしって、染岡はベッドにダイブした。よくよく考えれば、自分も相手も男。むしろバレンタインという行事は関係ないのだ。
考え込んでいるうちに普段寝る時間はとっくに過ぎ去っている。授業中はともかく部活中に眠くなるなんてことは避けたかった。格好悪いところなんて誰にも…とくに円堂だけには見せたくない。

「見せたくなかったのに…」

次の日、案の定寝不足の染岡は思うように動かずにいた。
パスはミスるシュートは空振る、まさに絶不調。

「染岡、ちょっと休憩してこい」

一緒に練習していた豪炎寺が、眉間を押さえてそう告げた。

「悪い」
「そう思うならはやく治せよ。エースの不調はチームの志気に関わる」

フォロー上手な豪炎寺に頭を下げ、染岡は部室へ戻る。鞄からスポーツドリンクと一緒に転がり出たのは、昨日買った板チョコ。そういえば甘いものは疲れに効くという話を思い出し、染岡はチョコをひと欠片口に放り込んだ。
と、突然ドアがガチャリと開く。円堂が不思議そうな顔でそこに立っていた。

「調子良くないんだって?大丈夫か?」
「別に…すぐ治る」

心配そうに染岡を見ていた円堂の視線が、ふと下がる。

「チョコ…」

小さく呟いた円堂に、染岡は迷った末チョコを差し出してみた。

「く、食うか?」
「食う!!」

途端にチョコに飛び付く円堂。

「い、言っとくけど、深い意味はないからな!!」

そう言い訳した染岡を、モグモグしながら暫く無言で見詰めていた円堂は、アッと叫んだ。

「そっか、今日バレンタインだ!!有難う染岡」
「な…」

ごまかそうとして掘ったボケツに、二人して落っこちた。
余りにお粗末、だけど喜んで貰えたなら、まあ良しとしよう。

END
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