頂き物、捧げ物

□バレンタインフリー小説
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理由ありて

「師匠っ、ハッピーバレンタイン!!」

マックスはそう言って開いた両手を半田に差し出す。半田は苦笑してその手に何かを乗せた。

「はい、ハッピーバレンタイン」
「うわぁー…い…」

マックスの歓声は、途中から力が抜ける。前髪と帽子の隙間から、まん丸の瞳が恨めしげに半田の顔を睨んだ。

「なにこれ」
「チョコだよ」
「もう少し詳しく」
「チロルチョコとちおとめ味だよ」
「ふーん…って何でやねん!!」
「うわあっ!?」

裏手ツッコミパンチを鳩尾に食らった半田は、文句を言おうと口を開きかける。しかしそれより先にマックスがまくし立てた。

「何で!?バレンタインにチロル一個ってどう考えても義理じゃん!!師匠はボクが嫌い?嫌いなの!?」

一息で言ったマックスは、余程悔しかったのか涙目になっている。
半田はユルユルと首を横に振って、真っ直ぐにマックスを見据えた。

「これは、マックスを思ってだよ」
「は?意味わかんないよ!!」

まだ何か言いたそうなマックスの唇に人指し指を当てることで黙らせて、半田は静かに口を開いた。

「確かに、高いチョコの方が有り難みはあるかもしれない。でも考えてもみろよ、ホワイトデーのお返しの相場はチョコの三倍って言うだろ?そんなの、あとでマックスが大変になるだけだ」
「あ…」

半田の言葉に小さく声を漏らし、マックスは申し訳なさそうに俯く。

「それに、オレは本命にしかチョコは渡さないから」
「しんいち…」

マックスは微かに頬を赤らめ、それから満面の笑みを浮かべた。

「えへへ、そっか。そっか、有難う。コレ食べてもいい?」
「うん、どうぞ」

小さなチョコを口に放り込み、幸せそうに目を細めるマックス。そんな彼を見ながら、半田は心の中で呟いた。

「お金がなかった…って理由は伏せておくべきだな」

ホワイトデーのお返しは、きっとチュッパチャプスだ。

END
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