頂き物、捧げ物

□企画提出
2ページ/5ページ

転がってきたボールに向かい、左足でもって力の限り蹴りつける。ウケ狙いかと思うくらい見事に空振った。

「カッコワルーイ…」

思わず口から出た言葉は、彼の気を悪くさせるには充分で。目金は、細い目を更に不機嫌に細めてマックスを睨み付けた。

「文句があるなら帰って下さい」
「ゴメンナサイ…」

最近、部活が終わってからも、目金はこうして河川敷で一人、練習に励んでいる。口ではエースだなんだとのたまっているけれど、自分の実力のなさは、自分で一番分かっているに違いない。だからこうして、毎日暗くなるまで頑張っているのだ。
まったく上達しないのは別として。

「まったく、黙ってて下さいよ、気が散るから」

目金はフンと鼻を鳴らし、また白と黒のボールに向かい合う。今度は助走の過程で盛大にコケた。

「すごーくカッコワルーイ…」

今度は、ご本人に聞こえないようにコッソリ呟いてみる。目金は、油の切れたロボットみたいにぎこちなく上半身を起こし、そのまま動かなくなった。

「目金ちゃ〜ん、おーい」

異変を感じ、マックスはピョイとベンチから飛び降り目金に声をかける。返事はない。
「目金ちゃんてば…」
「…んで…」
「は?」

余りに小さな声は聞き取れる筈もなく、マックスはしゃがみ込んで目金の口元に耳を寄せた。それが、大きな間違い。

「僕だって、強く、なりたいのにっ!!」

耳がキーンとなった。目金の、半ば裏返った涙声に、マックスは帽子の方のネコミミを塞ぐ。意味はないけれど。

「僕だって…僕だって頑張ってるのにっ…追いつきたいのにっ!!」
「ん〜…」

堰を切ったみたいに溢れる涙、目金は地面を叩きながら悲鳴みたいに叫んだ。
もともと努力なんて縁のなさそうな彼。だけど、気持ちが本物なのは分かった。
こんなに悔しそうな目金は、見たことがなかったから。

「目金ちゃんは、そのままでいいと思うよ、ボク」
「…は?」

今度は目金が聞き返す番だった。
マックスは、涙やら汗やらでベタベタになった目金の顔から眼鏡を奪うと、歪んだフレームを器用に元の形に戻す。

「いいじゃん、ボクらチーム。だから目金ちゃんの足りない部分はボクが補ってあげるし、ボクの足りない部分を目金ちゃんがカバーするの。だから、ちょっと弱くてもダイジョブだよ」

目金は、納得行かなそうな顔をした。
近くの川で、汚れた眼鏡を綺麗にしてから目金に返す。目金は黙ってマックスの手から眼鏡を奪い取った。

「松野くんの足りない部分って、何ですか…」

ようやく落ち着いたのか、ジャージの袖で顔を拭った目金が問い掛けてくる。

「ん?んんー…」

マックスは腕組みして唸った後、ポンと手を合わせた。

「影の努力?」

いくら考えてみても、自分が目金に劣る部分なんてこれしか思いつかない。

「その理論じゃ僕が頑張り損じゃないですか…」
「えー、そんなことナイナイ」

再び泣きそうな雰囲気を醸しはじめた目金の両手をギュッと握って、マックスはその顔を覗き込んだ。

「特典満載。ボク、頑張ってる目金ちゃんが大好き。好感度アップでフラグ立ちまくり。ね?」

分かり易いように彼の好きそうなギョーカイ用語を織り交ぜ説明してみたのだが、目金はポカンと口を開いて固まったまま答えない。何だか今日は間抜け顔と格好悪いシーンばかり見ている気がするが、それでも放り出せないのだから、相当重症だ。

「…つまり、何が言いたいんですか」

トゲトゲした口調で言いながら小首を傾げる目金。可愛らしい仕草にも、ちっともときめかないから逆に不思議だ。
「つまり…」

上手い言い方が見つからない。器用に何でもこなせるのが売りな筈なのに、珍しくどう言ったらいいのか思い付かず、考えあぐねているマックスに、目金はイヤミな顔でニヤリと笑った。

「松野くんでも考え込んだりすることがあるんですね」
「そりゃねー…」

なにも言い返せないマックスに機嫌を良くしたのか、目金は立ち上がるとジャージについた泥を払う。それから、マックスに片手を差し出した。

「今日は帰りましょう、さすがに疲れました」
「やったー」

握った手は、汗まみれでちょっと気持ち悪い。けれど、離したくはなかった。

「あ…」

ふと、浮かんだ言葉。目金が、その声に振り返ったが、マックスは苦笑でもって誤魔化しておいた。
どれだけ格好悪くても、性格悪くても、頼りにならなくても、放っておけない理由はただ一つ、これだけ。

「目金ちゃんもだけど、ボクも相当間抜けだと思う」
「はぁ?」
「何でもない!!」

ベタベタする手をしっかり握り直して、マックスは口の中で呟いた。

「何でなのかボクにもちっとも分かんないけど、残念ながらべた惚れ…です」


END


後記

意地っ張りで、頑張り屋で、泣き虫な目金が好き。普段はこういうのが性格の悪さに全部隠れてるけど、誰かひとりに理解してもらえたら幸せだろうな。
マックスは、そういうのがちゃんと見える子だといい。

とんだマイナーですが、閲覧あざす!!
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ