頂き物、捧げ物

□71000キリリク(稲妻11)
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偶々だし!!


禁断の技と言うのは、禁断と言うだけあって体にえらい負担がかかる。入院から一週間、源田は今日からやっと集中治療病棟から一般病棟へと部屋を移された。
包帯で白く彩られた指を、顔の正面で動かしてみる。と、その先の扉に嵌った磨り硝子に、見覚えのあるシルエットが透けて見えた。

「辺見」

源田がそう呼ぶと、シルエットはビクリと揺れる。少々の間があって、不機嫌そうな顔の辺見が引き戸を開けた。

「今日から、見舞い出来るんだってな…」

片手を後ろに隠した辺見は、源田のベッドに歩いてくるなりぶっきらぼうに言う。源田は、苦笑で頷いた。

「だから早速来てくれたのか?」
「は!?ち、違ぇし!!散歩の途中にたまたま来ただけだし!!」

帝国学園からは電車を使わなければ来れない距離。苦しい言い訳を追求すればきっと病人だろうが容赦なく蹴られるに違いないので、源田はにやける口元を引き締めて話題を逸らした。

「手に何を持ってるんだ?」

先程から辺見が動く度にカサカサと音を立てるコンビニ袋。辺見は、さも仕方ないという顔をした。

「め、目ざといな。これは…こ、後輩どもに土産でもと思って…」


半透明の袋の中には、源田の好きな甘さ控えめのプリンが一つ。思わず唾を飲み込むと、辺見はニヤリとした。

「あ〜、そっか。お前もコレ好きなんだったよな〜」
「意地悪め…」

ベッドに座っている為、源田は上目で辺見を睨む。辺見は意地悪な笑みから一転、顔を赤くして二、三歩後退った。
それから、袋を握った拳と源田の顔を交互に見て、やがてその手を源田に差し出す。

「びょ…病人を虐めんのはオレも本意じゃねぇから、欲しいなら…やるよ…」

一切目を合わせようとせず、耳まで真っ赤になりながら、辺見はようやく聞き取れる声で言った。
最初からお見舞いのつもりで持って来てくれたのは明白なのだが、あまりにツンツンした辺見の態度に、ちょっとした加虐心が生まれる。源田は、内心を隠して極めて優しい微笑みで答えた。

「いや、後輩に宛てた物を先輩が取り上げるわけにはいかないからな」
「な…」

驚きか、落胆か。小さく声を上げ、辺見は俯く。まさか断られるとは微塵も思っていなかったのだろう、いつも強固に張り巡らされた強がりの壁は、こんな些細なことで呆気なく崩壊してしまった。

「辺見」

源田が呼ぶと、辺見はゆるゆると顔を上げる。
泣き出したいのを必死に堪えているようだった。

「嘘だ。せっかく辺見がくれるというものを、オレが断るわけがないだろう」
「っ…ば、馬っ鹿!!なら最初から恵んで下さいって言えよな!!」

源田の言葉に、辺見は悪態を吐いてベッドに袋を投げる。そのまま部屋を出ようとする辺見を呼び止め、源田は包帯で白く彩られた手を上げてみせた。

「困ったことに、まだ手が動かせない。食べさせてくれないか?」
「…し、しょーがねぇな。有難く思えよ」

いつもより幾分甘い気がするプリン。でもそれだけじゃお腹はいっぱいにならないので、ついでにお前も戴いてしまうことにしよう。


END
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