夢幻の関わりがあったから俺は、無限のよろこびを知った。

□第一章∞国錬視察訪問
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第一章国錬視察訪問



『キューイ、君に国錬視察の要請が来ている』

 義理の兄であるロイ・マスタング大佐に書類を渡される。その書類を受け取り、ざっと目を通しながら、続く説明を待った。

『場所は日本、任期は五年予定だ』

『日本かぁ。錬金術があまり浸透していない国だな。そんなとこで何を見てくるんだか……』

 国錬視察訪問、正式名称は国際錬金術師による他国視察と情報共有を目的とした研究発表会。
 錬金術師としては特に後半部分に重点を置きたい。他国の研究発表は興味深い見解を見せてくれるので、国際錬金術師(通称国錬)は視察訪問の要請が回ってくるのを待ちわびる。俺も、その一人だった。
 だが、行き先は日本。錬金術事体があまり認知されていない国だ。言ってしまえば、アメストリスの何倍も何十倍も遅れている。それを思うとあまり気乗りしなかった。

『キューイ。この視察を拒否するということは、国際資格および国家資格を返上する、ということだぞ?』

『わかってる。ちゃんと受ける。原点に戻って新たな発見があるかもしれないし?』

 そしてその一週間後、俺は日本へと向かった。


* * * * *


 日本に到着。
 まずはこっちの担当者に会わなきゃいけないんだが……名前しかわからない。迎えに来るとは言われてるけど、どうやって合流すればいいんだろうか……。
 こっちの担当者さんは“来ればわかる”と待ち合わせ場所さえ決めさせてもらえなかった。俺もその言葉を鵜呑みにしてここまで来たが……現在絶賛後悔中。何なら迷子センターにでも行ってみるか!?
 とんでもない打開策が頭を巡る中、俺を呼び出すアナウンスが流れる。ご丁寧に英語で、だ。
 えっと……近くのインフォメーションまで来い? 俺、何か呼び出されるようなことしたっけ? まぁ、考えていても仕方がないのでアナウンス通り、インフォメーションへと向かった。

 そこからが長かった。インフォメーションに行くと“総合センターまでお願いします”という伝言。そしてそこでも、東第3搭乗口まで来い。さらにその次もその次も別の指定場所が用意されていて、二時間近くも空港探索をさせられた。端から端まで容赦なく歩かされて本当に疲れた。ようやく、空港から抜け出せそうなタクシー乗り場へと辿り着いた時は凄く安心した。

「さすがにお疲れの様ですね」

 俺を迎えに来た、という運転手さんが申し訳なさそうに笑った。

「えぇ。日本に来て空港探険するとは思ってもみませんでした。こんな宝探しゲームみたいな待ち合わせ、日本ではよくあるんですか?」

「まさか。これはあの方の遊び心です。あなたに少しでも楽しんでもらえる様に、と。それと、あなたの安全の為でもあったんですよ?」

 “遊び心”と言われて、一体今回の担当者はいくつなんだ、と頭を抱えた。
 だが、後半部分は納得出来る。俺が国際資格を有するから、だろう。国家錬金術師の中の、ほんの一握りの者しか手に出来ない、世界最難関といわれる資格、それが国際錬金術資格だ。その資格を持った、いかにも懐柔しやすそうな子供――頭の弱い者が力づくでも欲したい、と思うのは理解出来なくはない。

「だとしても。日本じゃ国際資格の証のエンブレム見てもわかんないだろうに……」

 俺は首から下げていたエンブレムを引っ張り出して言葉を続ける。

「それに危険なのは不特定多数じゃない。元々俺の素性を知ってる人です。あなたを含めて、ね。とはいえ、自分の身は自分で守れます。危険は承知で来てますので」

 ニッコリと笑顔を向ければ、運転手さんも肯定して微笑んでくれた。
 その後は本当に他愛のない会話が弾んだ。この運転手さんはこっちの担当者さんお抱えの運転手さんらしく、担当者さんの話をたくさん聞いた。
 担当者さんは日本での国家資格を持つ錬金術師。普段は(道楽で)教師をしているらしい。
 今もお仕事中だから、ということで、その担当者さんの勤める学校へと向かっていると教えられた。

 そして到着した、マジででかい学校――氷帝学園と書かれた校門前で、俺は一人その場に残された。


* * * * *


「職員室ってどこだよーっっ!?」

 かれこれ三十分は歩きまわっただろうか。授業中の為か尋ねようにも人がいない。こんな中途半端に放置してくれちゃって……くそぅ、あの運転手さんも担当者さんも恨むぜ!?
 “心の汗”が目に滲むのを感じた時、授業終了を告げるチャイムが鳴り、チラホラと生徒が姿を見せ始めた。
 その内の一人を何とか捕まえて職員室に案内してもらおうと思ったが、音楽準備室にいるだろうから、とそちらの方へと連れて行かれる。案内してくれた生徒に礼を言って別れた後、俺は目の前の扉をノックした。すぐに短い返答があり、中へと入る。

「君が国際錬金術師か。私は君の担当になった榊太郎だ」

「はじめまして、黒崎久維です。よろしくお願いします」

「早速だが、まず日本で生活するにあたり、君には当学園に通ってもらうことになる。手続きはこちらで済ませてあるし、制服や教材は後で案内するマンションにすでに揃えてあるので安心しろ。学校生活も視察の一部だが、それに縛られすぎては日本に来た意味も薄れるだろう。君の場合在学事体が特殊だから欠席や早退はある程度認められる。それから、研究発表会の予定表を渡しておく。参加は君の自由だ。傍聴なら直接会場へ、発表するならひと月前に運営事務所に連絡を入れるように。次に――…」

 充分に厚さのある資料を渡され、今回の視察の重点を簡潔にまとめて説明してくれる……が、最初の一撃が強力すぎて、ほとんど頭に入らなかった。

「…――説明は以上だ。困ったことがあったらいつでも頼りなさい。何か質問は?」

 ようやく終わった(らしい)説明に我に返り、ずっと頭にあった疑問を口にした。

「俺がこの学校に通う、と仰いましたよね? その理由を聞いても?」

「君はまだ十四歳だろう。日本では義務教育を受ける年齢だ。アメストリスで大学院まで出ている君にとってはつまらないかもしれないが……人との生活で学ぶことも多い。在学を強制されるのは今年度だけだ。進学するか否かは君自身で考えると良い」

 そんな訳で、明日から俺は氷帝学園中等部の、三年生です。


* * * * *


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