作家アリスシリーズ

□私と君の距離
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 ――アリス。今時間大丈夫? ゆっくり話出来る? アカンようなら出直すから、ハッキリ言うて。



 突然の咲からの電話。嬉しくて頬が緩む。折良く仕事も落ち着いているし、彼の期待に応えられそうだ。



「大丈夫やけど……どうしたん? 何かあったん?」



 ピンポーン。

 私の言葉に被せるように部屋のチャイムが鳴る。誰だ、こんな時間に。折角咲と話が出来る機会だと言うのに。



 ――チャイム鳴ってるやん。出ぇや。



「いや、でも……」



 ピンポーン、ピンポーン。



 ――早く。待たしたら悪いやろ。大事なお客さんやったら困るんアリスやで?



 居留守を使おうと思っていたが、咲にそう言われては仕方がない。私は不機嫌な声を隠さず、ドアに向かって誰何した。返事はない。

 ……何やねん。

 ドアスコープを覗くと、満面の笑みの咲が手を振っているのが見えた。



「――って咲っ!?」



 慌ててドアを開けると、やっと開けてくれたー、と笑う。



「びっくりした?」



「した。何しに来たん? いや、用がなくても来てくれたら大歓迎やけど。とりあえず入り」









 通話中だった携帯を切り、コーヒーを淹れる。どうぞ、と差し出した所で、もう一度来訪の目的を問うと“現実逃避”という答えが返ってきた。



「今アカンねん。調子悪くて全然描かれへん」



 大胆な逃亡だ。彼の担当の怒りの矛先が私に向かなければいいが。



「大丈夫やって。締め切りまでもうちょい期間あるし、真坂さんは、俺がスランプになってること自体知らん」



 知らん、って……。そこはちゃんと報告すべき点だろうに。まぁ、咲らしいと言えばそれまでだが。



「で、気分転換にと思って、有栖川センセの最新作を読んだんよ」



「それはどうもおおきに」



「読んだらアリスに会いたくなったから、押しかけてしもた」



 ゴメンな? とトロンとした笑顔を向けられる。

 何やねん。めっちゃ可愛いやんけ!

 テンションが上がる。が、私は冷静を装ったまま。



「どうやった?」



「長かった」



 何やねん、その感想。書いた本人の前で言うことちゃうやろ。



「長すぎて読むんしんどかった。本分厚いから重いし。上下段で読みにくいし」



 内容に触れろよ、内容に。



「やのに。一気に読んでもた。面白かった。まだ浸ってたいって思った」



「トリックはどうやった? 犯人わかったか?」



「俺は読む専門や」



 “読む専門”。咲のミステリの読み方だ。推理考察せずに読み進めていくタイプ。



「勘でも当たらんかったんか?」



「今回はアカンかった。あの子ォやと思っとったんやけど……」



 あの子ってどの子や!? と思いつつ、ヤマ勘で当てられんで良かったとも思う。



「んで、アリスとヒロインの関係がめっちゃ可愛いやん! あの終わり方、俺好み」



「可愛いのは咲やけどな。まぁ、内容的に満足頂けて何よりや」



 咲の感想に満足した私は、いつの間にか空になっていた彼のカップにコーヒーのお代わりを淹れてやる。

 ザックリと感想を聞いた後はキャラ談義に移っていく。イラストレーターとしての性分なのか、私以上にキャラを作り上げて暴走していく。事もあろうに、彼が持って来ていた私の最新作の余白スペースが、落書きで埋め尽くされた。



 そうやって、時間は過ぎていった。



「アリス。俺、帰るわ」



 来た時と同じ様な突然さ。でも、ある程度予測は出来ていた。落書きを続けていく内に、スランプを脱したのだろう。



「送っていく。もう終電近いしな」



「まだ間に合うから大丈夫や。突然押し掛けて時間もうたのに、そこまで迷惑かけられんって」



「俺が送りたいんや。今度は俺の気分転換に付き合え。ドライブ」



 酒入れんで良かった。ちょっとの時間でも咲と一緒にいたいから。でも、彼の仕事の邪魔はしたくないから。短時間のドライブでも、充分に楽しいから。



「ありがとう」



 お礼は私が言いたかったのだが……。



「仕事片付いたらまた来ィ。それでチャラや」



 君のその笑顔が見れるなら、チャラどころかお釣り返さなアカンけど。

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アリスの最新は『女王国の城』というどうでもいい裏設定があったりなかったり。

関西弁読みにくかったら、ごめんなさい。


 

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