寝室に“It’s a small world”が鳴り響く。かなりチープなやつだ。時計を確認して思わず舌打ちしてしまう。ベッドに入ってまだ一時間も経っていない。
「……もしもし?」
意図せず声がとがる。まぁ、眠いのだから仕方ない。
――あ、やっぱ寝てた? 俺、誰かわかる?
想定通りの相手だった。
「アリス」
正解、と嬉しそうな声。この程度で喜ばれるのは複雑だ。ただ単に、アリスの着信には“It’s a small world”を使っていただけなのだから。
それにしても。寝ているだろうと予測した相手に連絡をしてきたのか? 何か緊急の要件でもあるのだろうか。そのまま問う。
――寝起きな割には察しがええやん。
意外そうに目を丸くし、でも、優しい笑みを浮かべるアリスの顔が容易に想像出来る。
――さっき火村から電話あってな。ウチの近所の動物園までご出張やねんて。んで俺も誘われたから行くねんけど、咲はどうする?
眠気で靄がかかっていた意識が一気に覚醒した。
「何でヒデじゃなくアリスからの誘いなんかわからんけど……つまりアレやろ? 動物園デート。行く行く絶対行く全力で行く!」
お互いの都合でヒデやアリスと一週間ほど会えていない。事件現場に足を踏み入れるということから、不謹慎なのは承知だが、二人に会えるのは素直に嬉しい。
――ええお返事や。まぁ、デートは事件が片付いたらになるけどな。
まぁ、それは仕方ない。さっさと片付けてもらって、少しでも長いデートを期待するとしよう。
――んなら、準備してウチ来ぃ。火村もウチに車置きに来るって言うてたし。……それか迎えに行こか?
「いや、大丈夫。一人で行ける」
相変わらず過保護やなぁと思う。でも全然嫌じゃない。
「なぁ、アリス」
――ん?
「おはよう。……まだ言うてなかったやろ?」
――っっ!
俺の言葉に、促音全開の反応。多分今、アリスの顔は真っ赤なんだろう。スキを付けたようで嬉しい。
「シャワー浴びたらすぐ行くわ。お出迎えよろしく」
――あ、あぁ。気ぃ付けてな。
途中でマクド寄って朝マックでも買っていこう。
そんなことを考えながら、支度に取り掛かった。