作家アリスシリーズ

□アリスについて。
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 世の中には不思議なことが身近に点在している。その内の一つが、これだ。どうして一介のイラストレーターにすぎない私が、推理小説の解説なんぞを引き受けているのか。しかも、読み進めると分かるが、解説でも何でもない。
 ことの始まりは、彼の担当K氏である。彼とはアリスを通じて面識があり、ごく稀にだが、酒の席で顔を合わせることがあった。その折に、彼は爆弾を落としてくれたのだ。

「次回作の解説をお願いします。有栖川さんがどういう人物か、読者に知って貰ういい機会ですね」

 所詮は酒の席。冗談だと思っていた。その時は曖昧に流したはずなのだが、酔った彼は流されてくれてはいなかった。私が甘かった、としか言いようがない。
 フォローのなかったアリスへの恨みも込め、ありのままを綴ることにした。そうでなければ、とてもやっていられない。
 と、長い前置きはこれ位にしておこう。

 私は自他共に認める“有栖川有栖のファン一号”である(“自他”と言うのは、私とアリス、そして共通の親友だけだ)。彼が新人賞に砲撃している頃からのファンなのだ。それがことごとく日の目を見ない状況に、「見る目がない審査員だ」と不貞腐れては、アリスに慰められるという不思議な日々を送っていた。

 彼との出会いは、大学に入学してからだった。必修科目の階段教室。最後列の廊下側。講義中に内職をする、私と隣に座る有栖川有栖。第一印象は“とても楽しそうに文章を書く奴”。その印象通り、彼は目を輝かせ、かなりのスピードで、お世辞にも綺麗とは言えない字を原稿用紙に埋め尽くしていた。私は好奇心から、自分の内職の手を止め、彼の物語を盗み見、覗き込み、最終的には大胆にも手に取って読んでいた。彼にとっては迷惑だっただろう。だが、書きかけの彼の作品は、一瞬にして私を夢中にさせた(その作品は結局、新人賞で日の目を見ることはなかったのだが)。

 その当時から、彼の書く世界は大本を変えていない。暖かい世界観に、溢れる人間らしさ、基本的に私好みの筆運び(ここに至っては重要!)。推理小説というジャンル上生々しい表現があるにはあるが、それを内包してしまえる程の、優しさ。全ては彼の内側に起因するものだろう。
 人当たりは良く誰にでも優しい。意外に頑固で優柔不断。気持ちがすぐ表情に出て分かりやすく、扱いやすい。真面目で異性には臆病。長い間夢を追い続け、手に入れてもまだまだ楽しそうに突っ走る。私の知る有栖川有栖とは、そんな男だ。もう少し分かりやすく言えば、アリスと同姓同名の、この小説の主人公であるワトソン役の彼。あの子にとてもよく似ている(作中のアリス君の方が、素直で純粋で可愛らしいが)。でもこれは、アリス本人が自己投影した結果ではない。彼の作ったキャラクター像に、いらぬ肉付けをしたのは他ならぬ私なのだから。私が勝手に妄想したものを彼に聞かせ、アリス本人も無意識の内にそれを受け入れてくれているのだ(何と友達甲斐のある奴なのだろう!)。
 そんな作中アリス君をもう少し(……という表現は生ぬるいか?)捻くれさせた、作家・有栖川有栖。私は今後も“最初のファン”として、彼と彼の作品の行く先を見届けたいと思う。そして、また一緒に仕事をしよう。新人賞で見向きもされなかった未発表作(もしくは、私の為に書き下ろしてくれる作品でもいい)、コミカライズする機会があれば、是非私に声をかけて欲しい。

 ……何だか解説というより恋文のようになってしまったが、愛はこもっているので良しとしよう。


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