ジャンルミックス

□ボカロ曲からSS化!
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時忘人(M&W:仕事してP)



 ――俺はここで何をしてるんだろう。何でこんな所で、独りきりなんだろう。あいつは……何処に行ったんだろう。

 もう何度目のため息か。ここ最近同じような疑問がぐるぐるぐるぐると思考を埋め尽くす。

 夕日色に染められた街。家へ急ぐ人々を何の気なしに眺めながら、俺はただその場にいた。理由は簡単。この場所に縛られているから。俺の周囲に、見えない壁がある。その壁を、どうしても越えることが出来ないのだ。その理由は……わからない。そもそも、いつからそうなのか、思い出そうとしても記憶に霞がかかる。焦り、歯痒さ、悔しさ。そんな感情で、唯一の相棒、愛剣の柄を握った。

 壁に背を預けて腰を降ろす。今夜も、記憶の整理をしてみよう。

 ――ここは、俺たちが派遣された、戦地、だった場所。その戦争も数ヶ月前に終わり、復興を遂げ、賑やかになってはいるが、かつては多様な色、臭い、声が入り乱れた激戦の地だった。俺は確かにここで、あいつと一緒に戦っていたはずだ。背中を預けていた、全幅の信頼を寄せていた、あいつがいたはずなのに。どうして俺は独り、この場に縛られているんだ?
 ……またいつもの問い。小さく息をついて空を見上げる。暗い空にただ一つ浮かぶ紅い月。まるで今の俺のように、孤独。

 あいつは俺を置いて、まだ何処か、戦いの地に身をおいているのだろうか? いつかはここに、来てくれるのだろうか?

 戦っていた記憶はある。戦友がいたことも覚えてる。でもこの街には俺独り。あいつの笑顔が、恋しい。

 あいたい 会いたい 逢いたい!!
 ――っ!?
 そうだ、思い出した。全部、何もかも。
 俺がここにいる理由。動けなかった理由。
 それを認めたくなくて、俺の時間も、吹いてくるはずの風も、聴こえるはずの声も記憶さえも、封じていたらしい。
 剣の柄にあった手を左胸に押し当てる。あるはずの鼓動は感じない。動けなくなった時から。何も聴こえなくなった時から。もうずっと前から――。

 こんなにも胸が痛いのに、もう涙を流すことも出来ないのか。俺はゆっくりと目を閉じる。それでも信じてる。絶対お前が迎えに来てくれることを。その時まで俺は、ここでずっと待ってるよ。





 ――やっと、見つけた。
 ――お前なら、見つけてくれると信じてた。
 ――独りで勝手に死んでんじゃねぇよ。
 ――ごめん。でも、これでようやく逝ける。ありがとう。
 ――馬鹿が。

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