□ギセイ
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キズついたあなたをみたくない

泣いてるあなたをみたくない

無理してわらってるあなたをみたくない





わたしが薔薇の館にはいるとそこには−まさにガラス細工という表現がぴったりな−聖が窓から外を眺めていた。

「…聖」

日が暮れ始めた冬の夕方に,
暖房はおろかコートさえ羽織らずに立っていた。

ゆっくり振り向いたその目が去年を思い出させる。

「…蓉子?どうしたの?」

一瞬びっくりな顔をしたあと微笑んで言った。
そう話しかけた聖の瞳は,たしかに去年とは違っていた−

「…聖,あなたまだ−」
「ねぇ。秋に木が葉っぱを落とすのなんでだと思う??」

わたしを遮って聞いた。

「…新しい葉が出るから,かしら??」

「でもそれだったら冬に葉っぱを落としてもいいと思わない??」

それはそうだけど…
そんなこと普通考えない。
「じゃあ聖はどうおもうの??」

「…実を守るためだと思う。」

へらっと笑った顔はいつもみたいに軽いそれではなかった。

「秋に落ちた実はそのままじゃ寒さで新しい芽がだせなくなる。それを暖めるために落ちてるんじゃないかな。…自分を犠牲にして」

外を見ているその瞳の奥はみえない。

あの別れを思い出してるのだろうか

栞さんのことでまた自分をせめているのだろうか

−聖。栞さんは自分を犠牲にしただなんておもっていない

そう言おうとして−やめた。
私がなにを言ったところで聖は自分を責めることをやめはしないだろう。

そう考えていたから
すぐには理解できなかったのかもしれない。

「まるで蓉子みたいだよね。」

目と目があう

「…なにいって…」

「春がきたら」

その顔に笑いはなかった。
話を遮られたのは本日二回目。

「実は芽をだす。」

そこではっとした。

つまりそれは…

温かくなったら枯れ葉はもういらないということ。

そう。

聖のキズは
ゆっくりと,でも確実に癒えてきてる。

それはなによりも望んでいたこと。

それなのに…

「そう…ね。そしたら葉はもういらなくなるわね」

目をそらした。
顔を見られたくなくて

クスクスという笑い声が聞こえた。

「でもさ,植物は葉っぱがないと生きてけないんだよ。」

その声がひどくおだやかで。
どうしようもなく,
泣きたくなった。

「情けないよねー。生まれてから死ぬまでずっーと守られっぱなっし。」

きっとおおげさに肩をすくめているんだろう。

「でもね。わたしはそれでもいいと思うんだ。」

そしてわたしの前に回り込んだ。

「もちろん「守られっぱなっし」てとこじゃなくて」

そういって今日1番の顔をした。


幸せなあなたがみたい。

笑っているあなたをみたい。

本当のあなたを見たい。

一番近くであなたを見たい。

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