□ツキズナ
1ページ/2ページ

失礼しましたと言われ閉められるドアからまた生徒が入ってくることはなかった。
ふぅと息をつき椅子にもたれ掛かる聖。

「お疲れ様」

体は動かさずに首だけ回して声が聞こえた方むく。

「ほんと
勉強熱心で困るね」

大袈裟にため息をつく聖を見つめて苦笑するのは聖と同い年ではあるけれど三年先輩の先生。

「佐藤先生
人気ありますから」

実際今日質問にきた生徒の数は10人。
ほとんどが団体で来たもののそれでもやはり多かった。

「それは教えかたが上手いから?」

「わかってるくせに」

くくくと含み笑いを浮かべる聖。
今日来た生徒は質問なんて2,3分で済ませてしまいその後はずっと聖と雑談していたのだ。

「かわいい子ばかりで困っちゃう」

「今のは教師としてあるまじき言葉です」

「おー怖い怖い」

身震いしてわざとらしく言う聖にはやっぱり冷たい視線しか浴びさせられない。

「さぁて
そろそろ帰ろっかな」

明日の準備は?と問い掛ける言葉を無視して上着をきて帰る気まんまんの聖。

「鍵ここにおいとく」

そう言って窓ぎわの机に鍵をおいた。

ふと外をみるとさっきまで昼間のように晴れていたのが真っ暗になっていた。

「うわー外まっくら」

「最近日暮れるのはやくなったからね」

時計をみるとまだ七時にもなっていない。
ゆっくり窓を開ける。
身を少し乗り出すようにして外を眺めると危ないわよという声が聞こえた。
んーと両手を上にあげ一日の疲れたを吹き飛ばすように伸びる。
一日中立てるか座ってるかのどちらかだったから結構腰にくる。

頬にあたる風はひんやりしてて昼間あれほど暑くてもやっぱり夏は終わったということを思わせる。
ここはあまり車のとおりが激しくないので目をつむるとどこかの田舎にいるような気さえしてくる。


「寒い」

ボソッと後ろから一言。
冷え症らしい彼女はクーラーもあまり好まない。

「はいはい」

腕を窓辺について外を見ていた聖は振り向きもせずに答える。
ガラガラとゆっくり窓を閉める。
だが外の音が完全にシャットアウトされる前に手は止まった。


見上げた夜空は−今日の朝雨が降ったからだろうか−都会では珍しく星がキラキラとたくさん光っていた



あぁ
蓉子も見てるかな



「…どうしたの?」

なかなか閉まらないのを不思議に思ったのだろう。

「なんでもないよ」

残っていた20pほどの間を全部閉める。



今日はいつも仕事に追われてる蓉子がはやく帰ってくる日。
今頃同じように仕事が終わって帰る準備でもしているのかもしれない。
それとももうすぐ家につく頃だろうか。

あんなきれいな星空を独り占めするのはもったいない。
ああ見えて意外と子供でロマンチストな蓉子。


それじゃあまた
そう笑う聖は自分が早足になっていることに気がつかない。

 


END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ