□言葉未来
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本当の愛は自分が自立しなければ決して得られないものだ。
恋人同士の別れ。
一度はどうしようもなくお互いを好きになった恋人達なのにそれは訪れる。
別れを繰り返し,それでも最終的に多くの人々は永遠の愛を誓い結婚する。
その儀式を行うか行わないかには以後の人生を共にする,という大きな違いが生じる。
けれど儀式を行った相手と行わなかった相手の間に気持ち的な大きな違いはない。
そう言うと新婚ホヤホヤのラブラブカップルは腹をたてて真っ向から否定するかもしれない。
私達は運命の赤い糸で結ばれた二人だ,そう信じて疑わない。
けれどその人達も数十年後には今テレビに出てるしわだらけの厚化粧のおばさん達と同じように
「結婚は忍耐だ」「生まれ変わったら今の相手とは絶対結婚しない」
苦い顔をしてそんなふうに語るのだろう。
今の相手と結婚してよかったか。そう上に書かれた円グラフは青い色が80%占めていた。
賢さとは現実を見つめ受け入れる事だ。
昔の哲学者が生きているとしたら彼らはおよそ愛という名の幻想に逃げ込んだ愚か者とでも称されるのだろう。
言葉未来
今日のデートの相手の準備を待つ間につけたテレビには日曜日の真昼間という時間帯に似つかわしくない番組が放送されている。
いろとりどりの鮮やかな服をきたいい年した人達が興奮気味にがやがや議論しているその風景はどちらかと言うと前に一度だけみた昼ドラと呼ばれるものに近い雰囲気だ。
「永遠なんて結局ないのよ」
ソファーに身を預け息をつく。それは本当に意識せずに出てきてしまった言葉。
だから背後から,しかも耳元で返事が返ってきたのに思わず蓉子は体を震わせた。
「そんなことないよ」
そのくすぐったさに慌てて振り返った先には今日のデートのお相手がばっちり決まった服装でポケットに手をいれにこやかに立っていた。
せっかくの二人だけの休日なのに一時間も待たされたことを文句でも言ってやろうかと思ったけれどその姿に言葉を呑んだ。
「そうかしら」
挑発するような表情と口調で見上げる蓉子に聖は前かがみなり顔を近づけ,そうよとにっこり微笑む。
「私は永遠に蓉子を愛しつづける」
「あら,光栄だわ」
「あ,信じてないな」
言葉とは裏腹にため息をつく蓉子にむっとして顔を顔を覗き込む聖。
「信じてるわよ。心の底から」
「蓉子,感じ悪い」
「私は現実主義者なの」
「へー」
「だからそんな実現不可能なことは信じられないの」
「ふーん」
聖はちょっと拗ねたふうに意外とロマンティストのくせにと呟いてソファーを蹴っている。
信用していないわけではない。むしろ私以外で聖が夢中になる人なんていないと思っている。そんなには。
それはいろんな障害を越えてきたからこそ築かれたものだ。
けれど。永遠なんて,私たちは所詮長くても80年そこらしか生きられないだろう。
その数字は確かに長く感じられるが永遠と呼ぶには短すぎる。
「まぁそうだけど。そんな風に考えるんだったら永遠なんてないじゃん?」
「そうかもしれないわ」
「でもそれじゃあおかしいっしょ。存在しないものに名称はつけられないよ?」
「現代ではその考え方は否定されているわ」
「あっ墓穴。じゃあ言葉があるんだから存在だってもちろんあるよね」
蓉子の考え方から言えば。
嬉しいそうにソファーの背から身を乗り出して頬をつっついてくる。
「そうかもしれないわ」
「つれなーい」
「例えあったとしても私たちとは無関係だもの」
だんだんエスカレートする手を掴んで止めると聖は困ったように苦笑いした。
「だ・か・ら。こんなに身近にあるでしょ」
「なにが?」
「永遠が」
「まさか愛とか?」
「さっきから言ってるじゃん」
今日の聖はなかなかしつこい。手を叩いてやっても離れるどころか後ろから抱き着いてくる。
一言そうねと言ってしまえばなんともないのに私はどうしてかその一言を言いたくなかった。
「蓉子は固いのよ」
「そう?」
「永遠に愛しつづける。じゃなくてそう言えるほど愛してる。そう受け取ればいいの」
「意味がわからないわ」
だってじゃああの言葉は結局嘘なんじゃない。
そんなに都合よく解釈なんてできない。
「言葉は偉大だけど気持ちを表すには小さすぎる。だから感じなきゃ」
「あなたらしくないわ」
「確かに。自分でもこんな風に考えるなんて信じられない」
くすくす笑いながら話す聖の目はどこか遠くをみている。
相変わらず髪を撫でるその手は止まらないけれどなんだか置いていかれたような気分だ。
「私も永遠なんてないと思ってた。だから全てが馬鹿らしく感じられた」
どうせこんなもんだ。くだらないことだ。
高校二年生までずっとそう思っていたと聖は言った。
その目に写っているのは遠い過去なのだろう。
「でもね世の中も捨てたもんじゃないなって。蓉子の側にいると思うんだ」
そう言って満面の笑顔を私にむける。その透き通ったきれいな瞳に写っているのは確かに私。
「蓉子の側にいると永遠を信じられるの」
延ばされた手が触れているのも確かに私。
先程までは窓際だったにも関わらず日蔭になっていたそこは,いまや傾いた太陽が降り注いでいた。
テレビから聞こえるものはもうゲラゲラとした笑い声ではなくゆったりとしたピアノの音色である。
「そろそろ行きましょう。お店がしまってしまうわ」
「うん」
拍子抜けするほどあっさりと肩に乗っていた重さがなくなっても蓉子は立ち上がろうとしない。
「蓉子ー?」
靴も履き終えて準備万端の聖が玄関から顔をだしている。はやくー,としたばた急かすのを聞いてゆっくりソファーから腰をあげ立ち上がる。
「今いくわ」
がちゃりとドアが開く音を聞きながら,隣に置いてあったバックを取ると蓉子はいきおいよく駆け出していった。
あなたの側では
永遠を確かに感じる
End