ゆめ

□初めての
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図書当番は暇だ。
借りにくる人がいなければ、何もすることがないから。
普段なら退屈しのぎに図書整理とか掃除とかもしてみるけど、今日はそれすらする気が起きなかった。

寝ちゃいたいなあ。

目をつぶったらこのまま寝てしまいそうだ。

ぼんやりとし始めた私の頭に響く足音。
音はちょうど図書室の前で止まり、戸に影を映しだした。

うつらうつらしている私の頭では、戸に影を落としているのは誰なのか判別できなかった。

ガラガラと音をたてて戸が開かれる。

足音と影の主が誰なのか認識した途端、私の頭は一瞬で冴えた。

内心大慌ての私とは対照的に、立花仙蔵はいつも通りの視線で私の方をちらりと見て、部屋の奥へ歩いていった。

今日こそは挨拶しようと思ったのに。

よく図書室へ足を運ぶ立花くんは、私が当番をしている時も例外ではなく本を借りにやってくる。
そういう時、私は最低限の言葉しか発しないし、彼もまたそれに少しの相槌を打つだけだ。
そして立花くんは図書室からいなくなってしまう。

そんなやりとりを繰り返す間に、ふと思った。

せっかく本を貸し借りする仲なのに(私の本じゃないけど)他人のままなのはもったいないな、と。

そんなどうでもいいことを考えているうちに立花くんは目当ての本を見つけたようだ。
机の上に本が置かれる。
私はその本の背表紙を開いて借りだしカードを取り出し、立花仙蔵と名前を記入してもらった。
立花くんの字は相変わらず綺麗だった。

カードを受け取り棚にしまう。

そのまま机に置かれたままの本を手にとって差し出した。


「返却は来週中です」

「わかった」


そうして立花くんの手が本を受け取ろうとした時、今までそんなことは一度もなかったのに、私の手に彼の手が重なった。

冷や汗かきまくりの私。
何とも思っていない様子の立花くん。

しかしそこから色恋沙汰に発展するわけもなく、本はあっさり私の手から離れていった。


いつもだったら立花くんはここで図書室から去っていく。
私は今日も全然話せなかったな、と思って終わるはずだった。


「そういえば…」


でも今日は違った。
立花くんが私に話しかけたのだ。


「今日は長次はいないのか?」


まさか、本当に?

信じられない思いで私は周りを見まわした。
でもやっぱり図書室には私と立花くんしかいなかった。


「中在家くんなら、たぶん今日はこないと思うけど…」

「そうか」


…沈黙。
コミュニケーション能力のない自分を恨む。
せっかく立花くんが話しかけてくれたのに…。


「一人じゃ退屈だろう、図書当番」


私が入ってきた時も眠そうだったしな と言って笑う。

初めて見る立花くんの笑顔。
思わず見惚れる。

私の心臓がどくん、と脈打った。



恋のはじまり






会話少なっ
たぶんつづきます


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